魯文の報条(二)

高 木   元 

十九世紀末に生きた戯作者である魯文の遺業の大半は、『安愚楽鍋』や『西洋道中膝栗毛』を除けば、纏まった著作物を形成することなく無数の片々たる紙片として残存してきた。具体的には、錦絵の填詞や報条引札、都々逸などの俗謡本や他作者の著書に投じた序跋などである。此等は売文の所産であるが故に文学的営為とも見做されず、誰にも顧みられることはなかった。

しかし、報条や填詞などには趣向を凝らした戯文が駆使されており、魯文をはじめとする十九世紀末の戯作者達の足跡を明らかにするためには必要不可欠な資料群なのである。したがって、此等の散佚してしまいそうな資料群を、現時点で可能な限り蒐集しておく必要がある。そこで、前号に引き続き今回は人間文化研究機構国文学研究資料館(以下「国文研」)が所蔵する貼込帖を中心に、魯文の書いた報条を紹介しておく。

資料名 [東京横浜明治初期料理店及び商店引札](ラ3-34)
形 態 白茶布表紙折本仕立一帖(36.8×52.8糎)
注 記 引札82枚を帖仕立てにしたもの。うち魯文のものは13枚。裏に歌舞伎番付42枚あり。

資料名[魚網開店の告條](ユ9-102)
形 態 一枚摺り(17×17糎)
注 記 この資料は、台紙に貼られた状態で1枚だけで保存されている。

【一八】

〈御免〉人力車

   御披露ごひろう

天地あめつち萬物ばんもつ逆旅たびにして。光陰くわういん百代ひやくだい過客たびうどなり。古人こじんしよくとつあそぶハ。かぎりあるのたのしみにて。懐中くわいちう時計とけい後朝きぬ%\に。みじかそてたもとわかち。かは蒸氣じようき上手うはてあそびに。こくたがへぬ開化くわいくは人情にんじやう其処そこつく西洋せいやう商個あきうど老舗しにせげふ片手間かたてまに。人車じんしやおもひ月花のながめこり通家つうかのお指揮さしづ。バ子をそへたる駕乗のりごゝろ。運動うんどうによき工合ぐあひ修理しゆり両輪りやうわちな両國りようごくに。今般こたび開業かいげふつかまつれバ横濱上下近郷きんがう近在きんざいはなちまたおん通行かよはせゆきあした遊山ゆさんなりとも。定價さだめほかにおもたまし。おいそぎ即時そくじ引出ひきだ手筈てはづ。さハあれ酒手さかてうけ申さす。さかくるまおこたらねバ。物見ものみ車のおん客様きやくさまがためぐわたちのしげ/\に。來駕らいがねがふになん

戲作車  假名垣魯文述 [善惡] 

 定價\一 壹里 金弐朱\但一日貸切御旅\行貸切仕候\車力御酒手\一切受不申候

八月下旬より開業仕候

 風雨の節ハ上覆ひを用ひ候間少しも\さはり無御座候但油くさき匂ひ一切無之候

両國米沢町壹丁目 西 洋 堂 


【一九】

牡丹ぼたん紅葉もみぢちらしにゑがきし。柴刈しはかりぢい山鯨やまくじらハ。むかしばなし古臭ふるくさしとしよくあたらしき西洋せいやう風味ふうみかの洗沢せんたくかはり。調理ちうりひらけし牛肉きうにく功能こうのうおほきハ汗棟充かんとうじう。うしと今更いまさらこひしく。貴賤きせんこぞつて賞味しようみ別品べつぴん四季しきをきらはぬ養生やうじやうぐひも。取分とりわけふゆにくとんじんおぎな気力きりよくす。しるし見世みせおん目印めじるしふとしくたて高旗たかはたを。目的めあて賣出うりだ當日たうじつより。あひかはらすの來駕らいが主人あるじかはりてねがものハ。

うし煉藥ねりやく黒牡丹こくぼたん製主せいしゆ     
假名垣魯文述 
 ○牛肉鍋〈御壱人前|三百七十弐銅〉○同玉子やき 銀五匁
 ○同すき焼〈同|七百文〉○同茶碗蒸  同五匁
  赤牛味噌漬  同甘露煮  〈御好|次第〉

 藥品 〈○白牛らく|○白牛乳〉 ○粉名メリキ ○きうたん ○たけり

 來九月五日より三日の間賣出麁景呈上

浅草御藏前片町    
牛肉賣捌所        日の出惣吉 


【二〇】

 〈淺草|元祖〉牛肉賣捌所ぎうにくうりさばきどころ

壹斤 價金二朱ヨリ

     賣出うりだし御披露ごひろう

およそ牛肉ぎうにく功能こうのうあるや。近来きんらい西洋せいよう窮理きうりの。食料しよくれう經驗けいけんのみならず。すで張華ちやうくわ博物誌はくぶつしにも。暦然れきぜんとしてそのことあり。かの紀元きげん千七百九十六年。英國えいこくヘルケレイのに。おほ野飼のがいして。もつぱ人身じんしんやくとせしより。各国かくこく蒼生たみこれもちひて。壮健さうけんなることするに物なし。目今もくこん文明ぶんめい開化かいくわすゝみ。われひとともこのにくを。たしむ御代みよ徳澤とくたくに。うるほみせ繁昌はんじやうから。御れいがてら一斤いつきんより。小賣こうりいた精肉せいにくの。あたへれん元直もとねかぎり。四辺あたり故障さはりにかけかまはず。お口にあま安賣やすうりハ。あきなひめうり意地いぢはりまづ外々ほか/\めしあがり。くらべておためしあれかしと。両肌りやうはだ主人あるじかは

れい牛食うしくひ假名垣魯文述[文] 
  牛肉鍋〈御壱人前|三百五十銅〉 同すきなべ〈同|六百銅〉
  肉入玉子焼茶わんむし〈是迄より一倍|下直奉差上候〉
  牛肉岩石團子〈風味至てやはらかにて御老人|子供衆にも御口に叶てよろし〉
  うしのねりやく 黒牡丹 脾胃ひゐをおぎなひ氣力きりよくをまし

 〈たんせきの根をきる事妙なり|曲もの入  價金一朱より〉

 淺草御蔵前片町     
日の出惣吉 [精調無類] 

  閏十月\十八日より

    五日の間賣出し\麁景差上仕候

【二一】

     御披露ごひろう

軍配ぐんばい團扇うちはかぜなびき。贔負ひいきれん取廻とりまはしに。相撲すまひ茶屋ちややとは嗚呼をこがま式守しきもり行司きやうじにあらず當時たうし活計なりはひ。めうがにかな大入おほいり四本しほんばしら普請ふしん出来しゆつたい。おん客様きやくさまの御顔觸かほぶれ。よろしき日取ひどりたくびらき。これから出世しゆつせ階段だん/\あがり。かの横綱よこつな横濱よこはまれんを。てんともいのりまうせば。はるふゆ場所ばしよ御發駕おいでかぎらず。四折々をり/\遊山ゆさんにも。おん立寄たちよりこひねが

源坊げんばうかはりて 假名垣魯文丈述 [東西南北]  
相撲茶屋 東亰東両國 回向院前  伊豆源拝   


【二二】

梅隣亭  梅素[楳素]

  よい向と\儲の外や\梅に月

 會席割烹家

   開舗告條みせびらきかうでう

まつ隱居いんきよさかいまじへて千歳ちとせいろともちぎ梅屋敷うめやしきとなりにしてうぐひす人來ひとくつぐるハ竹垣たけがきひし眺望みこみちんかやのき舊年ふるとしちりそゝぎてあたらしはるまうけの會席くわいせき料理りやうりにはかにおもひつき梅景色うめけしき調とゝのまでにハゆかねど鮮魚せんぎよかはなみあらちやみづ墨水ぼくすいかまたゝ四時しじのながめを混雜こきまぜをりなすにしきとみやこどりこの名所などころをおあて東風こちころ馬車ばしや人車じんしや夕風ゆふかぜそよぐかは蒸氣じやうきぶね屋形やかたさんにもおん訪問たちよりこひねがふと主人あるじかはりてのぶるにこそ

戲草文けそうぶみの  假名垣おろか伏禀 [呂文]  
葛飾寺嶋梅屋敷續\松の隱居隣家    
梅 隣 亭 

〈活冽鮮魚|薄茶割烹〉

來ル正月廾二日\賣初仕

【二三】

   御披露ごひろう

天地あめつち一大ひとつ戲塲しばゐならバ。活業なりはいも又ひとつの。小劇塲しばゐといふべきなりこゝわづか新店しんみせ舞臺ぶたい暖簾のれん天幕てんまくのきにかす。開店かいてん初日しよにちぶれハ。金平糖こんへいたうだいあげし。たうだい甘口あまくち三昧さんまい立者たてもの老舗おほみせくらべていは新顔しんがほとりこえ稲荷いなり町。あさひやしろちかくとも。利益りやくもうけ薄衣うすころもあつめぐみの御贔負ひいきを。ちからうり新賣しんまい商人あきうど作者さくしや役者やくしや二役ふたやくかね脚色しくむ新製しんせいしん狂言きやうげん樂屋がくや化粧けしやう氷掛こほりがけハ。かの白粉おしろいしろきにはぢす。挽茶ひきちやいりしぶいこなし。杏仁あんずたねすゐなるとりなし。所作しよさのかるやき瓢覃ひやうたん菓子ぐわしならべてまうさバ言立いひたての。なかよなか/\つきせぬしな%\。念入ねんいれ差上さしあげたてまつれバ。見世みせびらきの初日しよにちより。江戸えど花道はなみち八方はつぱうより。ひとやままく押分おしわけ/\。砂糖さたうづけのぎつしり詰込つめこみ當利あたりまき永當えいたう/\。光駕くわうが用向ようむきこひねがふ。そのため告條こうじやうさやうにこそ。菓子くわし/\/\/\/\/\

主人に代りて  假名垣魯文伏禀 
   ○〈風流〉氷掛金米糖類  ○新製胡广入和合豆
   ○極製砂糖漬品々     ○極新製當利巻
   ○〈新|製〉抹茶入利休□ ○風流子安糖
   ○極製南京糖       ○新製うくひす巻
   ○風流から衣       ○〓品下直奉差上候 以上

 来二月十九日見せひらき\當日麁景奉差上候

大門通油町新道     
小見川成太郎製


【二四】

 舩料理\柳舟

         椀焼 御ぜん\御壱人前付\價銀七匁五分

       口條

加茂川かもがはみつ雜水ざうすいハ。七段目の幕切まくぎれにて。東京川えどがは舩料理ふなりやうりハ。川開かはびらきを初日とせり。一面いちめん浪幕なみまく高脊舩たかせぶね大道具おほだうぐ佃節つくだぶし合方あいかたふけ川風かはかぜあがれよ調理ちやうり夏季なつきむね酒肴しゆかう按排あんばい今年ことしやすのお手輕てがる専一せんいちかの蝙蝠かうもり柳舟やなきふねあじはひ与三よさ御評判ごひやうばんを。

假名垣かながき魯文ろぶん ふしてまうす[文]
       御一人前一通 〈銀拾五参候|其外御好次第〉
       吸もの ○ 口取 ○ あらい\鉢さかな ○ 茶碗盛

  五月\明日より

元やなぎ橋 柳 舩


【二五】

  〈流行りうかう牛肉きうにく吉 例 賣 出きちれいのうりだ 十月 〈九日|十日〉より

傳染病でんせんびやうリンテルホストに。かくまでひらけし牛肉きうにく景氣けいきおとせし。まがつみたゞ新聞しんぶん風説ふうせつのみにて。家畜かちくやみうはさかず。いさゝかさはれることなきハ。開化かいくわます/\すゝむの祥瑞しやうずい肉食にくしよくばやりハ國益こくえきの。ひとなべにも十人十種といろタレむすもすきやきまで。あぶらのり活計なりはひめうり。煮出にだすソツフ骨折ほねをりを見せの看板かんばん黒牡丹こくぼたん正味しやうみ調進てうしんさしあげ申せバ。相變あひかはらずのにうしやを。みせ一杯いつばいきげん。こゝろよきまゝしてウス

牛屋うしや雜談さうたん安愚樂鍋あくらなべ著述ちよじゆつのいとま  假名垣魯文記[文]

  牛肉 〈なまうり|壱斤付〉    〈銀五匁五分より|金弐朱|金三朱〉
  牛肉鍋   〈御壱人前|三百銅〉
  同すきなべ 〈同|六百文〉
  同甘露煮  〈同|金一朱より〉
  しやも鍋  〈同|四百銅〉
御蔵前\片町東例\御ぞんじ    
日 の 出 

  両日\麁景呈上仕候

【二六】

酒焼酎本直開鋪

      賣初うりそめ告條かうじやう

假名垣魯文述[文] 

たけすゞめしなよくとまると。かの一節ひとふし唱歌しやうがちなみ。ねくら宿やど店前みせさきを。さゝ合手あひてにしたきりすゞめ宿やど何処どことおたづねの。おん目印めじるし酒林さかはやしそゝたらいふみかくる。二足にそく草鞋わらじ餘慶よけいはかり。ますたつぷり下直げしきむねとしすべ諸品しよしなハおくちりて。かる葛篭つゝら上々じやう/\吉〓きつはう醉心ゑひこゝろよき極樂ごくらくハ。何処いづこはて杉酒屋すぎさかや。お三輪みわうた馬士まごぶしの。馬喰町ばくらうちやう旅篭はたごさけと。内證ないせうばなしのちまたたかく。みせひらき當日たうじつより。御評判ごひやうばんねがふとまうす

馬喰町三丁目    近江屋善兵衛 

  來六月明日ヨリ

【二七】

       くだ漬物つけものるゐ告條こうてう

野暮やぼにもかうものありと。ことわざ故事こじつけの。たくはへ□□澤庵たくあんと。となへハふる大根だいこ総名さうみやう奈良漬瓜ならづけうり]のつるのびて。ひろごる名代なだいの[西瓜漬すゐくわづけ]。[たけたちおんにも。逢合傘あい/\がさの[松茸まつだけ]ハつぼみしようする[花落胡瓜はなをちきうり]。あぢ甘露かんろ味醂みりんに。流山なかれやま茄子漬なすつけ]こんで。丁度 [朝鮮瓜てうせんうり]といふ。コハ別品べつぴんの[小蕪こかぶら]を精浄製せいじやうせいに[駿河漬するがつけ]。冨峯ふじにハ四時しじの[雪降豆ゆきふりまめ]。御きやく様は[福徳ふくとくの豆]なをいのる[祇園蕪ぎおんかぶ]。みやこ麹子かうじにつけおくハ。あまきのみかハ[辛子漬からしつけ]。加減かげん平井あるじが[守口大根もりぐちたいこ]。ひきぬくあとを[梅干うめぼし]の。ひか〓明まはゆき天王寺蕪てんわうじかぶら]もつぶ撰立えりたてし。[らつきやう]の舛諸味もろみづけ。もろ/\[づけ]ハ大蕪おほかぶの。[千枚漬せんまいづけ]にもつきせねバ。たすきまゝ一寸ちよつと披露ひろう

つけもの一式いつしきにて會席くわいせきたてまつるといふ\主 人あるじかは難波かみがた句調くてうならひて

假名垣魯文 [善惡] 

  待合まちあひにまづ一服いつぷく薄茶うすちやにて\お口採くちとりをバなににせんじ茶

浅艸並木町   平井製  


【二八】

開化かいくわすゝみて産業さんげふまつたく。こゝ開店かいてん彼処かしこうりし。商利しやうりよりもはやきをむねとし。手柄てがらがちきそへるなかに。東京とうけいはなわざかの傳信機てれがらふつなわたり。浮雲あぶなくへても賣込うりこみし。白帆しらほ暖簾のれん當所たうしよへ。かけわたしたる舩橋屋ふなばしや製方せいはう播磨はりまがた高砂町たかさごちやうにしふ。風味ふうみ得手えてをあげて。しなもろともに出張でばり開店かいてん當日たうじつかけて馬車道ばしやみちの。往還ゆきかいしげ御求おんもとめ。太田町おほたまち多少たせう不限かぎらずようむきねがふになん  

主人あるじかはりて  淺草閑人  假名垣魯文述[善惡] 
 極製蒸菓子   干菓子るゐ\しな/\
 〈精製〉練羊羹金玉糖
 千鳥せんべい 御ぜんしるこ\しな/\
横濱高砂町二丁目\東京淺草雷門内店            
舩橋屋國太郎  

 來四月明日開店\麁景差上申候

【二九】

   有合御料理

      告條かうでう

假名垣魯文述[文]  

電信機てれがらふのきはなれ。銕道てつだうさかひへだちし。隅田すだ下流かりうのむかふごし繁花はんくわまねかは一重ひとへ人力しんりき馬車ばしやかまひすき。ちまたすこはなざと。日々新聞しんぶん鮮魚せんぎよかひし。魚肆かし朝市あさいち郵便いうびんは。音信おとづれたえぬ。主人あるじ勉強べんけう味噌みそすひものゝ誇香ほこりかならで。おくちくもらぬ寫眞鏡しやしんきやうみせ開港かいかう當日たうじつより。かは蒸氣車じやうきしやよどみなく。千万せんまんざう御来臨おはこびを。まち入舩いりふね帆々ほ/\ よくはつてまをす

本所外手町\お馬やかし南角    
魚綱  

 来九月明日開店

【三〇】

 ○極製御菓子数品  〈見世びらき|御披露〉

     告 條こうじやう           假名垣魯文戲述[文]

九年くねんなに苦界くがい十年じうねんはなころも。本来ほんらいくうさとりたるすい甘味あまみこのみの菓子臺くわしだい。おさけハこれでおつもりのゆきはだへやはらかく。極製こくせいくちとり手取てとり新舗しんみせ風味ふうみほともよしはらや。きやくのくるわの繁昌はんじやうに。あやかる工風くふうをねり羊羹やうかん遠山形とほやまがたに二ッほし下戸げこ上戸じやうこなかの町。左右どちらむきよひとこ夜半よは口舌くぜつハしらたまもち。かぜにまかせる青柳あをやぎまきは。浮川竹うきかはたけ包物つゝみものある折詰をりづめ御重おんぢゆうづめ。はなの江戸ちやう一円いちゑんに。すみからすみ京町きようまちの。けふみせびらき披露ひろうの。その引札ひきふだふみ使つてかのかすていらの狐色きつねいろ九郎助くろすけ稲荷いなりかみかけて。おん取立とりたてをねがひあげ。まゐらせ麁漏そらう文章ぶんしようも。菓子くわしるゐだけに甘口あまくちと。さだめしおほせあるへいまき。とやせんかく煎餅せんべい落厂らくがんやうや趣向しゆかうをおこしの品々しないづれも上製じやうせい上物ぞろひ。お見立みたてのうへ用向ようむきを。門口かどぐちたつ牛皮ぎうひかはりて。おそでひいねがふになん

神田橋御門外角       
青柳製 [青柳] 

  来十一月十三日十四日

    見せびらき\景物として御風味\奉差上候

【三一】

來三月十八日

  書畫小集  柳橋万八樓おいて   開莚

    本日 諸先生揮筆

〓上に筆を染る文雅の諸大家に雪を頭の仙翁も有へく三日月眉の閨秀も有へし墨の池に龍踊り硯の海に亀遊ふ是そ錦に添る花流るゝ水に桜の香汲や隅田の名鳥もこゝに聚る両國川酒も有又絲も又ありやなしやハ愛顧の君たち光駕ありて試たまへ
       岳亭春信       柳亭種彦
       光齋芳盛       為永春水
   補弼  鶴亭秀賀    會幹 関根只誠
       喜樂軒一庭      梅素玄魚
       春亭京鶴       扇面亭

       鈍亭更  催主   假名垣魯文再拜   


【三二】

  伏禀ふしてまうす

鈍亭魯文述[文] 

ふるきをたづねあたらしきを。知るとハ老舗しにせ暖簾のれんを。この新店しんみせわかつのいひにて。古衣ふるぎたづね新着きぬき見出みだす。土手とでものかひ類等たぐひにあらず。されバまことあらたにして。日々ひゞあらたなるおほ都會えどの。流行りうかう変格へんかくほしうつり。原野げんやたちまむねかさね。のきならべし新地しんち結好けつかう。そが繁栄はんえい餘沢よたくそめんと。當所たうしよひさおん菓子くわし数品すひん原舗ほんけおとになりひゞく。雷神門かみなりもん内店うちみせより。この筋違すぢかいもんそとへ。まか出見世でみせ一体いつたい分身ふんしん普請ふしんことあたらしけれど。名目なまへふるきお馴染なじみだけ。時々じゝ書画會しよぐわくわいちやせき一夕話ひとよがたりのおん口取くちとりあるひハお土産みやげ重詰ぢうづめ四季しき折詰おりづめ御好おこのみ次第しだい下戸げこさまがたハ申におよばず。上戸じやうごきみのおくちにも。かなふがすなは新製しんせい工風くふうあたひもつぱひきくなせど。風味ふうみたか山吹やまぶきの。花香はなが汲出くみだすおちやみづ。その川下かはしもながるゝふねと。城門みつけはしをお目的めあてに。多少たせうかぎらず用向ようむき仰付おほせつけられくだされなバ。これぞわたりに舩橋屋ふなばしやおりえ織 江ひら出店でみせ繁昌はんじやういくすへなが取立とりたてを。主人あるじかはりねがふものハ。故事ふるきたづね新板しんばん合巻くさぞうしつゞりなす。新昧しんまい作者さくしや甘口あまくちになん  ○〈新|製〉 御菓子司  御口取物御折詰等\奇麗仕立奉差上候
  □ 御茶席むし菓子類         数品
  □ 極製羊羹類            数品
  □ 新製葱宝珠饅頭     十付  壱匁
  □ 二色あん隅田川     十付 八十文
  □ 三色あん窓の月     十付  五分
  □ 腰高まんぢう      十付  五分
  □ 新製福和内           二十文

右之外新製数品御引物御進物暑寒御見舞\物御赤飯あるひハ御 祝儀御包菓子之御誂如何様\にも取急キ御間合差上可申候

雷神門出見世\筋違御門外新地      
舩橋屋織江 

   巳九月明日より\當日麁景奉差上候


掲載資料一覧

 凡例  一、【一】〜【一七】は前号掲載分
 一、請求番号の後の〈 〉は枝番号か折数(丁数)を示す。
 一、参考文献として挙げたものは以下の通りである。
  A 『引札 繪びら 錦繪廣告 江戸から明治・大正へ(増田太次郎、誠文堂新光社、1976)
  B 『引札繪びら風俗史』(増田太次郎著、青蛙房、1981)
  C 『江戸のコピーライター』(谷峯藏、岩崎美術社、1986)
  D 『幕末・明治のメディア展 ―新聞・錦絵・引札―(早稲田大学図書館編、1987)
  E 『大阪の引札・絵びら』(大阪引札研究会編、東方出版、1992)
  F 『広告で見る江戸時代』(中田節子著・林美一監修、角川書店、1999)
  G 『明治のメディア師たち』(日本新聞博物館、2001)


【 一 】貸本屋「山城屋金太郎」佐藤悟氏蔵毎日新聞新屋文庫(370〈K0〉)、A 図85
【 二 】新吉原「邑田海老屋」佐藤悟氏蔵
【 三 】御菓子屋「船橋屋」佐藤悟氏蔵
【 四 】書画会「本町東助」佐藤悟氏蔵
【 五 】寿司・菓子屋「藤原満吉」佐藤悟氏蔵
【 六 】料理屋「石井亭」佐藤悟氏蔵
【 七 】古書画「知漢堂木免屋」佐藤悟氏蔵
【 八 】浴衣手拭「伏見屋榮治郎」佐藤悟氏蔵
【 九 】初舞台「坂東百代」佐藤悟氏蔵
【一〇】会席料理「昇運亭」佐藤悟氏蔵
【一一】待合「成田屋登代」佐藤悟氏蔵
【一二】鳥料理「珍鳥亭」佐藤悟氏蔵
【一三】化粧品「佐野」佐藤悟氏蔵
【一四】料理屋「宇治橋」佐藤悟氏蔵
【一五】西洋料理「會圓亭」国文研蔵(ラ3-34〈9〉)A 図84、B 図105、C 図59、D 図183
【一六】酒屋「石崎酒店」A 図88
【一七】植木屋「安五郎」毎日新聞新屋文庫(370_K33)G 図152、A 図90
【一八】人力車「西洋堂」国文研蔵(ラ3-34〈2〉)
【一九】牛肉賣捌所「日の出惣吉」国文研蔵(ラ3-34〈2〉)
【二〇】牛肉賣捌所「日の出惣吉」国文研蔵(ラ3-34〈2・10〉)
【二一】相撲茶屋「伊豆源」国文研蔵(ラ3-34〈3〉)
【二二】會席割烹「梅隣亭」国文研蔵(ラ3-34〈3〉)
【二三】菓子「小見川成太郎」国文研蔵(ラ3-34〈7〉)
【二四】舩料理「柳舩」国文研蔵(ラ3-34〈11〉)
【二五】牛肉賣捌所「日の出」国文研蔵(ラ3-34〈11〉)〔明治3年カ〕
【二六】酒焼酎「近江屋善兵衛」国文研蔵(ラ3-34〈14〉)
【二七】下り漬物類「平井」国文研蔵(ラ3-34〈17〉)
【二八】菓子「舩橋屋國太郎」国文研蔵(ラ3-34〈22〉)
【二九】有合御料理「魚網」国文研蔵(ユ9-102)
【三〇】菓子「青柳」C 図60
【三一】書画会「書畫小集」F 87頁図4〔万延元年カ〕
【三二】菓子「舩橋屋織江」南木コレクション(天守閣2271)E 90 〔安政6年以前〕


《付記》『安愚楽鍋』の舞台となった牛鍋屋「日の出」の報条三種【一九】【二〇】【二五】については、嘗て拙稿「魯文の滑稽本」(「日本文学」二〇一六年一〇月号)で紹介したが、誤植などが在るので便宜上再掲した。また、今回紹介した国文研蔵貼込帳(ラ三―三四)の九折に貼られている「西洋料理・會圓亭」は、前号の掲載資料一覧【一五】と同一で紹介済みである。


#「魯文の報条(二)
#「大妻国文」第49号 (2018年3月31日)所収
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#               大妻女子大学文学部 高木 元  tgen@fumikura.net
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