十九世紀末を生きた戯作者である仮名垣魯文は、その売文の所産として無数の片々たる紙片を遺した。具体的には、錦絵の填詞や報条引札などである。此等は文学的営為の所産とは見做されず、従来の文学史では決して顧みられることはなかった。しかし、報条や填詞などには、戯作者たる魯文の感性が横溢する戯文が駆使されており、十九世紀末の戯作者達の足跡を明らかにするためには、必要不可欠な資料群だと思われる。此等の片々たる魯文の資料群を、可能な限り蒐集して検証しておくことも、あながち無意味ではあるまい。
そこで、今回は国立国会図書館が所蔵する貼込帖に遺された魯文の書いた報条を紹介したい。
「広告研究資料」3編6冊〔初編〕巻1〜4、続編、3編 33×48糎(寄別3―5―114)
国立国会図書館デジタルコレクション(館内公開)(580934)
「明治時代広告研究資料」〔一編〕1冊 33×48糎(寄別2―5―112)
国立国会図書館デジタルコレクション(館内公開)(580935)
【三三】(製版、色摺 16.8×46糎)
御披露
釋尊印度にぎやつと降誕。 天上天下を指さし給へバ。時鳥ハ 雲井を〓翔。初鰹ハ大路を 奔走。垣の卯花咲しより。青 葉の山の眼に染て。 夏來にけらし白妙の。衣と更る陽季を量り。臼冬以来御取立の。 おん禮がてら欲心半ぶん。新製數品 工風を凝し。よろづの事の 移りゆく。流行人氣を鑒て。風味に倍増吟味を加へ。價直も格別 相はたらき。又新更ての賣出ハ。四方の花主の贔屓札に。御蔭を 仰ぐ再度の御披露。事々敷ハ候えども。鬻る物にハ誰渠も。飾る 言葉の花御堂。灌佛頃に活業も。甘茶に縁のあるものから。 悉達ぶりなる声色を。つかふて唯我獨尊と。自讃をいふも鳴呼 なれバ。召上られて四維上下の。差別を分たまはれかし。さりとて 郭公松魚に等く。てつへん懸直ハさら/\禀さず。只商賣を 正路に守り。家名を雲井にあぐるまで。此末長く御取立を 當家の主人に形代て。再び此條に願ふ個ハ
御菓子類数品 | 御口取物御折詰等
御練羊羹類数品 | 奇麗ニ仕立奉差上候
| 極製御蒸菓子類 | 十〆ニ付 壱匁五分\同壱匁\同五分
| |
○御茶席御蒸菓子類 | 數品 |
●隅田川都鳥 | 十〆ニ付八十文 |
●三色飴窓の月 | 同 五分 |
●上製麦らくがん | 同 四十文 |
●新製はま千鳥 | 同 二十文 |
●極製ちどり煎餅 | 同 二十文 |
●豆落雁福は内 | 同 二十文 |
●有平巻せんべい | 同 二十文 |
●風流八千代煎餅 | 同 十文 |
【三四】(活版 15.6×21糎 飾枠 字間二分アキ)
報 條
一時の損を資本として永遠の利を計る者ハ世の商 業の常ながら其日稼ぎの小商ひにハ繼込む資本の 無い智惠を絞り出したる腹嚢底を拂ひて營業の工 風ハ新規の發明ならずお口に馴しあなごの蒲焼さ れ共此魚の風味といつぱ彼濱川の漁にあり且ハ灸 方の精麁より美味を占むるの調製を或好食家より 傳へ受け本塲の魚が不漁の折ハ一切他品を賣らぬ と極め魚類の市塲に程近き土地柄だけに撰みに撰 み手味(ママ)味噌の辛過ず甘からぬやう中庸の素地正銘 の濱川あなごをかめで見ても金色に光る焼方鹽加 減と仰せ合され開業よりありやりやん隆登永當の 御來臨を希望
一 あなご蒲焼
一 同どんぶり
六月二日開業
【三五】(活版 19.9×24.2糎 飾枠草色刷 字間二分アキ)
正 眞 正 銘 東 京 一 家 海 内 無 双
禀 告
信 濃 國 産 新 蕎 麥 店 開 業 報 條
或人他家より蕎麥粉を貰ひ。此粉ハ己が壽を養ふ。世嗣と 看做必ずしも。まゝこにせじと贈 答しハ。芳志に報ふ信義 の謝言。その出 生ハ信濃の産物。風味の他國に比類なきを。 麺棒に熨し板に延べなバ。長野縣下の算へも盡ず。木曾の 藪原風そよぐ。薫りハ手打の音に聞え。微くいはで樽井の 里と。芋に繋がず齒切能く。短く刻みて釜揚の。熱川の宿湯 加減と。煮汁の加減を數度試み。當地に開く新蕎麥店。雪の ふる里遠くて近き。汽車の辨利を馬の脊に。換て輸荷の十 石峠。寢覺の里の東雲より。彼棧橋の危嶮なく。運びハ安き 價に比すれど。風味ハ高き風越の。峯も淺間の嶽竸べ。此淺 草の公園に。營み建し茅の檐。掛行 燈を御目標に。開業の當 日より。四季のながめの花屋敷。御運動の御足序。雜路々々 續いて御來臨を。細く長く希 望と。主個が需めに。蕎麥がき の音に通ふ
○寢ざめ蕎麥 | ○浮寢そば | ○さくら卷 |
○卯の花がき | ○八重山吹 | ○黄金蕎麥 |
○富士の笑顔 | ○利体(ママ)そば | ○瀑布の糸 |
【三六】(活版 17.4×24.7糎 飾枠 字間二分アキ)
●蕎麥新店開業
淡薄の味に香氣を含み。打立釜揚の湯加減に。好者の
腹を穿つ物。蕎麥の風味に如べからず。春の花蒔口に
輕く。取分夏の冷し蕎麥。秋の露物冬のあつ物。四季の
手打のをり/\に。上戸と下戸との中州の新店。茂る
眞菰の地を替て。あらたに開くあやめ町に。避暑かた
%\の清風亭。主個ハに組の消防に。頭 立たる侠客肌。
外と内との二人前。手足八本非 常の勉 強。蛸善と云字
を其儘。商個氣質となりはひの。道踏占る勉 強心。長く
續くの縁喜を祝。出をかけるとハ出前の幸先。移轉そ
ばの始めより。晦日蕎麥の終まで。出入暇なく雜路々
々と。御來臨を願ふ由を主個に代りて
【三七】(活版 20.4×25.8糎 飾枠草色刷 字間二分アキ)
改良御菓子御披露
甘泉滾々として靈亀その水の潔きに遊ぶといふ亀屋泉の菓子店ハ當所に久しき老舗なるも岩おこしの幾代變らず田舎おこしの僻製なるハ開化風味の當時に反けバ世の風潮に隨ひて万年製の古きを指き總て品物一切を改良なし下戸様方ハ勿論にて上戸のお口に適ふ様甘味に塩氣の混加減砂糖の雪舌に解け腹部に入て消化を導き留飲抔の妨害なく餅菓子干菓子の差別ハあれど清風一味に調製(ママ)の法を曲ず營業上ハ折詰の折目を正しく笹折のさゝやかなるも風味を變ず抹茶煎茶の點心にハ形象に風雅の型を盡し四季折節の新製にも高味に低き價を占め十露盤づくに關係なく數でこなすを緊要に精々盡力差上申せバ暖簾ハ古き万代の亀屋泉が流絶せず新製の改良品を御試味の上滔々と御購求奉願上候と句切ハ老實に
【三八】(製版 21.9×31.8糎)
〈新古|器財〉書畫展觀珍物會 三月廿四日
右は晴雨共於浅草御馬屋かし昇月樓相催候間當日珎物るゐ 虚実ニ拘らす御持寄御光臨奉希候諸品摸写縮図上木の上追而 配冊呈進仕候
席上諸先生拝毫
會幹 〈爲永春水\竹柴濤治\式亭小三馬\竹柴金作\岳亭定岡\勝 諺蔵\万亭應賀\櫻田治助|並木五柳\錦亭綾道\松島鶴次\菊葉露香\竹柴重三\琴亭文彦\九字薪作\樂亭西馬〉
大補 〈錦朝樓芳乕\梅蝶樓國貞\一圓齋國麿\一壽齋芳員\一曜齋國輝\一教齋芳満\一鴬齋國周\喜齋立祥|一梅齋芳春\一魁齋芳年\一葉齋芳貞\一光齋芳盛\一藝齋芳富\一侠齋芳延\一瓢齋房種\一立齋廣重〉
【三九】(活版 18.5×24.5糎 飾枠 字間ベタ)
書畫會筵 〈明治十三年三月七日|本日諸先生席上揮毫〉
於柳橋万八樓不論晴雨相催候間御來\臨是祈
竹外居士遠郷ヨリ來タリ府\下知巳ノ人少ナキヲ以テ吾\儕代テ諸君ニ光臨ヲ乞フ
筆賢畢く至り墨 長咸く集るハ通常書畫會筵の慣ひにして我國も亦義之淵明の徒尠からず一筆一酌一詠一盃亦以て幽深の情を暢共に樂むに足るが中に我友福陵の竹外先生明治十三年仲春の初武総の西陲万八樓に雅友を會す獨り文人墨客のみならず曩日先生が新富の劇塲に大書せし絲竹の歌日米之に列せば仰ひで來賓の多きを觀伏て別嬪の盛んなるを察す目を遊しめ憾ひを馳する娯みを極むるの日近きにあり自他信に樂みを合すや必せり嗚呼樂い哉
補助 新橋藝妓連\柳橋藝妓連\日本橋藝妓連\葭町藝妓連\新富町藝妓連\新吉原總連\○ 新橋濱廼屋\救合社中\○ 横濱文人社中\同港商會\蠣殻兜米商社會\新富座劇塲社會\書畫盆栽家\魚がし連\しんば連\○ 劇塲見連\六二見升連\見物猫々連\○ 松林伯圓社中\田邊南龍社中\放牛桃林社中\○ 三遊亭連中\落語むつみ連\朝野新聞社中\風雅新誌社中\假名讀新聞社中\いろは新聞社中\諸新聞投書連
侍史 田川一枝女\福島疎影女\富田瓊姿女\根岸南枝女\安中黙\扇面亭
【四〇】(活版 14.3×21.4糎 飾枠 字間二分アキ)
〈諸藝|各品〉
來客繁業遊覧會告條
賑やかな跡の祭禮ハ見物の飽足らぬ遺憾を補ひ感能の後舞に物足らぬ串戯の振ハ拙くとも笑味ありされバ内国勸業博覽會ハ我國未曾有の美擧にして公園地の廣く集め此上に上野なく此下に下谷なし龍紋不忍の池より昇り鳳紋鐘樓の趾に舞ひ花紋櫻の臺に爛漫たる賞牌の人々達が曩に閉塲の餘波にとて這囘風車の井生村亭を出品の本館に借設け一の遊覽會を開かんとす其來客の出品種類ハ博物の大業ならず壺公の術の一塲に縮め新古の玩弄物書畫珍器ハ雜と座附に陳列し最初機械舘に新聞出刷の鐡車を供へ記者の〓筆即報に隨ひ瞬間に文を成し活版自在の便利を知らしめ或ひハ美術の技藝に聞えし舞跳音曲講談落語諸流派を分ち諸藝黨をなし一座混合の興行ハ全く勸業の餘地にして前に所謂跡の祭博覽會の名殘の宴にて必ず遊惰の媒酌ならずと會 主に代りて出雲町の月下老人しるす
明治十一ノ年
當二月十七日於淺草須賀町井生村樓不論晴雨相催候間乞御來車
〈詩歌 俳諧 狂歌 川柳|琴碁 書畫 插花 煎茶〉 本日出席諸先生方揮毫
【四一】(製版 18.6×26.3糎 巻子体の意匠)
菅野順講 三月廿八日
漢語で幇間浪華にて弁慶と号太鼓持義經殿と武藏坊秀句の語呂も遁れぬ主従家の歌舞伎の十八番名弘め會の順當も旅の衣に廓を去り帰り新参再勤せしが夫倩おもん見れば大盡僑奢のお坐しきに忠次長座ハ却て御不興秋の月の倦れぬうちと偽山伏の笈ならで荷になることを厭ふより焼の廻らぬ身仕度が勸進要と大門の安宅の関を通り越日本堤を山谷に下り金剛杖の竹屋を頼みお馴染さまを呼子鳥梢乗込む入舩を待乳の山と\ホヽ欲張て申す
山谷堀竹屋において晴雨とも相催候間\御賑々敷御來駕奉希上候
【四二】(活版 22.1×19.0糎 飾枠 字間四分アキ)
〈廣造|高階〉廉價貸席開業報告
新島原の遊廓に次き新富町の數街ひらけ初し以来近源亭今般商業の都合と世の流行に隨ひ今般專門の料理をやめ幸ひ寒暑ともに空氣の流通よろしき坐敷數席庭園數十坪あるを又一層とり繕ひ至極廉價に貸席と改業せり尤も食類は諸客の御隨意に應じて供たてまつる塲合もあらん歟余當主とは舊友の縁故ありしかば時々眼に觸し實地の景况を造らず飾らず有の儘の順序を記し當家毎席の大小間毎案内者に代りて報條の文面に記す者は三十餘年斷金ならぬ池水の交友にちなみて成
先その口元より御覽あれ
●階下總て一百二十五疊おの/\床の間違ひ棚附これを仕切て間毎/\に區別すれば左の如し
○第一 八疊敷ならびに次の間四疊半一間附
○第二 拾四疊敷但し床の間附一間
○第三 八疊敷ならびに次の間四疊二疊二タ間
○第四 拾疊敷但し床の間附但し次の間五疊
○第五 四拾疊敷一間但し床の間違ひ棚附
○第六 貳拾八疊一間仝床の間違ひ棚附
總て疊數一百二拾五疊しかのみならず東南の方大廣園には大小燈籠奇石珍樹の植込あり
●樓上坐敷の部は
○第一 拾五疊ならびに次の間三疊但し床の間違ひ棚扁額ならびに碁將棊の備へあり
○第二 拾貳畳仝次の間三疊貳疊おの/\仕切
○第三 拾貳疊仝次の間四疊貳疊附
○第四 八疊次の間四疊敷おの/\廊下附此樓上間毎を合せ六十五疊その他夏冬建具屏風數双且二枚折小屏いづれも名家の繪畫
斯る廣間の設けあれば諸銀行諸會社の大集會文人墨客書畫會筵諸藝人方のおさらひ等にも聊か御差支有まじく但し御割烹お辨當は上中のお好みに隨ひ近隣の諸店より何品なりとも取寄せ席料の多寡は疊數に隨ひ至極廉價を以て餘計の御散財いさゝかも懸らぬを旨とするが今般の趣意なれば先一度御運動下され正銘正實の席貸とおぼし召されなば永久陸續御光來をこひ願ひ上たてまつると女主の告條を筆に言せて告白す
魯文附て白す近源亭貸席開業より三日間同家別席に於て所藏古物品三百餘品縱覽に供ふ
明治二十五年\九月四日開業
【四三】(製版 18.5×16.8糎 色刷枠)
劇塲茶屋開業御披露
常磐垣磐に彌繁る。歌舞伎の榮え久松座。「多見」の竈の賑ふ街。「助高」樓の甍を併べ。「翫雀」の群集ふ。此新築を三芳屋と。「多賀」評判も音羽屋の。噂を菊のよい辻占。斯る吉例は中村と。御贔負様と當座を目的に。今回開業の初日觸。はや開塲に近接たれば。蓋の開日を松の色。幾久しくもおん入を。八重扇子の要と願ふ。主個に代りて。お國歌舞の出雲町。かなよみの猫々道人 謹ンで記すと申す
【四四】(製版 19.5×26.5糎 下部水色地、浅緑で背景に竹を描く)
待合御案内
駕籠屋新道の旧き称を。人力車の今様に乗替。繁き街の往來を離れ少しく市中の閑を占れど。酒屋へ三里豆腐やへ。二里抔と云僻郷ならず。千歳座の幕開を。鳴物の音に知り。哥澤節の粹な調子は。居ながらに聞く自由の街巷。此所住よしの松に縁み。芦の假寐の旅泊ハ憚り。浪花の地名を假初に。咲く此花の香を汲し世に有ふれし待合渡世。昔の袖の移り香は。女主が手馴し客待遇。お知己様の御引立にて。細き流の茶の水も。梵字の滝の太く長く。追々老舗に成田屋と。願ひの糸の引續く。御贔屓方の加護屋新道大小不同の差別なく。御請待申し上れバ。出開帳めく開業より。昼夜をかけての御來車を。何卒諸彦キツトですと女主が句調を筆に模して一寸坐附の口上を演る
【四五】(活版 16×20糎 飾枠 字間全角アキ)
御待合娯披露
薄氷の玻璃障子に鉢植の梅薫り釣玻璃燈反射に庭前の闇を照す案内の石の飛々に柴の扉を訪問たまふ前々の娯愛顧より引續きての繁昌ハ全く土地の潤ひと娯定連のおん引立客歳よりことしへ掛行燈の光り絶せぬえにしを繋ぎ這回家名をその儘に譲葉の茂りに依り更めて開業到せバ年越の期に後れハすれどお馴染さまハ小庭外より福ハ内かとまめ/\しく御立寄を偏に祈りまゐらせ候柊の芽出度かしく
【四六】(製版 22.4×29糎 三升枠、背景地は黄櫨染刷)
〈消|毒〉黒 牡 丹
人ハ病の器にして健康なるも亦小患なき能はず就中殊に肺胃の二箇にありて其根を断ち葉を枯らさんこと和漢洋の國主にも全く掃除するの術難しとすべし抑此の黒牡丹煉薬は丗に俳優の巨擘と聞えし堀越団洲が門葉なる津軽の人市川瓢蔵が故里にありし日その家祖より相傳する處の奇薬にして第一常に服する時ハ胃を健かにし諸毒を消し凡而流行病の時に用ひバたとへ該病者と室を同ふすると雖も決して感染することなきハ製主が誓て証する処
斯る良方をして空しく行李に収めんこそ最ほしとて友人塩原源昌に授方せり依て塩原氏官の允許を得て公賣の益をはかる者ハ蓋し世利に走らんとするにあらずして衆庶の衛生上に利益あらしめんとの素志に出たり瓢蔵此の製を師の団洲に供す堀越氏試みてその効験の妙に感じ余輩と共に賛成の意を表せり。諸君一度用ひ猶を二度服するの用をなしたまはんこと希望す
角文字の いたつき癒て うしと見し\世のこひしさの いとまさりけり\假名垣魯文述
題傳來之藥 家よりも 古く持たる 請取哉\九世三升[夜雨庵]
牛の寐た ほとよく賣し 黒牡丹\白猿〈市川|正〔猿〕〉
実になれや 牡丹の畑の 種瓢\門弟瓢蔵[瓢〔齋〕]
該薬御用の御方は京橋區三十間堀三丁目十一番地楠方びらや瓢蔵あてにしはがき御遣し被下度早速御届候上候郵税御返戻可致候也
【四七】(製版 19.9×26糎)
逢景生情 海内奇才 抒懐諷諭 千秋名士 近松翁賛 〈福地|源印〉
松の操正しきに糸竹の節こめて梅か枝に来なく鴬のうたひ物古
きより新たなる御代に傳はりて殊に人の感を起すの妙聲
花の一に算ふものハそも/\近松翁の筆のすさひ凡ならぬ故
にこそあれ茲に翁か宗家と聞えし山鳥の尾の御門なる梢高き椙
の杜氏のうからなりけるさゝ原某といへる人筆掛の正歳日經て高く
登り硯の海深くあさりて著述の才ありそのかみ巣林翁かそゝ
ろにものされし水莖の跡言たすゝに踏まむこと好めはとて幸
ひ宗家の枝葉近松の名としふりて落葉の中にうつもれむを惜
みあへる折柄なれはうからやから打集ひこれを二代の門左衛門とハ
なしけるなり廃るを起し絶たるを継道のみかハ此ハこれ
正しき血統なるをやそか名ひろめの雅の
筵ひらける御代のいさほしと愛もてはやし
集ひ来ませつとはせたまへや
明けて治る廾とせ餘りひとゝせの初冬
【四八】(製版 18.6×25.7糎)
[游戯]\採影生神\為北庭老人之\吟 團洲[〈堀越|主人〉]
草畫の真に迫る者ハ心理の術なり北庭凡智の冩真 自ら下手と称して虚飾の栄を求ず然共所謂草畫の真を 冩すか如し嗚呼 富士に對す筑波山人我日本の一眼なる哉
北庭うし公園の紅葉を見倦て 雪霜色かへぬ竹川町に新居を 移せり幸ひ花月の樓に隣る 嗚呼春秋に冨たる人かな予 旧來の友垣に諸君の御光來を 希ふと竹に雀の囀るものハ
新居御披露
私事年來御愛顧を蒙り営業仕候故難有奉存候此度轉居
仕候に付開業當日御賑々敷御光來之程偏ニ奉希上候以上
明治十五年四月四日開業
【四九】(製版 16.2×21.4糎)
染物類廣告
加茂川の水ハ絶ずして然も元の水にあらず西京の 他無類の名ある染物類の水脉も開くる時の風に隨ひ 今東京の水にも適ふ染揚りの新発明西と東と比 競て劣らぬ色の濃紫ハ朱をも奪ふゆるしの色合 友染更紗の微細きより無地紋附の色変ぬ常磐 かきはの青々しき四季の盛りの花模様その他色 抜しみ抜等ハ瑕ある玉を磨き揚故きを洗ぐ生張 に旧の地性を損ふ事なく加 茂川の流を傳へ西と東の 京清が製工完美を試験ありて従来老舗の賣捌小町 紅諸共にうつくしき名の美土代町へ御光来の御注文と いろ/\取混希ふ主個に代りて
五月十八日開業\當日麁景呈上仕候
【五〇】(活版 17.5×23.5糎 字間ベタ)
○ 〈五大洲|新發明〉
一日雇重寶男
私儀義この度諸方様にやとはれの業体あひはじめ候に付左の條々おんよみ下され候上 にて是が實なら成程至極重寶の男なりと御ためしの上御用向仰つけられ下さるべく候
○横濱その他居留外國人への御使者には英語にて通辯仕候
○諸商業開店賣出し廣告のひき札配り一日一万げん
○貸借原被どちら成とも御依頼に應し辨當代言をも相勤む
○移轉すゝ拂ひ大工左官その外何事なりとも御手傳ひ
○祝儀不しうぎの配り物ならびに知らせのはしり使ひ
○諸社諸山への御代参又御隨従の節くるまの後押し
○取退け無盡の御代くじ十の七八ハかならず當り申候
○ペンキ塗り經師屋の眞似も可也に仕候
○板ばめのぶッけ建具類のそんじをつくろひ土ならし仕候
○人のいやがり怖がる處ろ山みち野原夜道の使ひ何時成共
○婚禮の橋わたし喧嘩口論の和談掛合もちとばかり
○野暮頑固無分別しまつにゆかぬ道樂者を解やすく説諭す
○おもふ女に思はれる傳授思ふ男に身を委して大丈夫の法
○劔突(しかられいやがられ)更に厭ひ不申候事
○ちからハ一人半足ハ日に二十里を行き草臥不申候
○學問ハ實語教童子教 手跡ハ通用の手紙ぐらひ讀かき仕候
○石川島及監獄中犯罪人等の差入物并に警察署え拘留人の罰金衣類等持参下け渡し放免の迎ひ
○坊チヤン方お相手おもちや手細工不手際ながら何でも仕候
但し御酒えんの御席へおまねき被下候へバ以前俳優も五六年相つとめ候腕にお ぼえこれあり候へバ端唄手おどりハ申に及ばす曖昧ながら浄るり段物も所作仕 りたつぷり御座興をそえ隨分おわらひにそなへ申候以上
明治二十一年一月より
御 雇 賃 御 隨 意〈毎日|出張〉 京橋區新富町七丁目七番地佛 骨 庵
【五一】(活版 16.3×21糎 飾枠草色刷 字間二分アキ)
めかり鮓開業御披露
長門の神事を神田に摸し。産神祭祀に當地より。 煉出す樂車の木偶から。思ひ設けし和布刈の名 目。廬生が夢の旅籠町に。 彼 邯鄲の一夜鮓。石の枕 の重きに漬て。淺草ならぬ朝市夕河岸。盤臺に活 溌鮮魚を撰み。鬼の金齒の一粒えりも。掴り加減 ハ 手 馴ぬ營業。新舗ながらも此土地に。家名ハ久 きおなじみを。目的にならぶる矢羽根の隈笹。ひ きハ外さじ講武所の。舊きを 去て新しく。移れバ 替る星野の開業。武張つた地名の角とれて。皿の 圓器に盛揚る。其盛大の御引立を。間近き三筋の 糸の音 諸共。お口をかけて給はらバ。追々粋が身 に染土地柄。開けし毎戸の繁昌に。あやかる芽出 しのめかり鮓。出前ハ勿論御運動の。お凉みかた /\風入能。手挟ながらの小座敷へ。一寸一盃御 立寄にハ。繕ひ普請の有合肴 調進さし上奉れバ。 是尾張屋の初物と。仰 合されにぎ/\と御光 來 を希ふ
來ル七月廿四日廿五日
開業麁景呈上仕候
【五二】(活版 16.5×20.9糎 飾枠 字間二分アキ)
御披露
久松座の建築近きにあり。中嶋座の興行後に絶ず。
南に葮町の花の顔。北に両國の柳の腰。人も入江の
濱町河岸。往來群集の上地を占て。曩に活動御料理。
開業致し候處。鮮魚の割烹同家に等く。俎板の御取
はやしに。煮汁のあつき御愛顧を蒙りしが。都合に
依て廢業なし。暫く他業に托せしに。或お得意の御
勸めに。再び庖丁の錆を研ぎ。古巣に歸り新參擬せ
ど。加減ハ豫て覺えの本業。春の支度の膳部の備へ。
今年の内より新年に。引めぐらしゝ準繩飾り。七五
三の堅きを和げ。七種薺の庖丁俎板。沖ハ遠土のと
り肴。すととん/\の即席按拝。念入差上たてまつ
れバ。以前御寄附のお知己諸君仰合され。年の尾に
繼來陽の。年の頭に絶間もあらず。御入來の程希ふ
需 應
當十二月\廿八日開店
【五三】(活版 17.5×25.8糎 字間二分アキ)
酒店開業廣告
花に浮かれ月に嘯き樂きに付け憂に付け之を飲めバ 愁ひを拂ふ玉掃木の名ハ支那より傳へ我大皇國の神 代よりやわらの瓶の釀造あるハ人の天性酒を好むを 本分とする者かされバ當店に貯ふ酒ハ本家本塲の西 京製にて素より京の水清く本地に産 出する酒ハ池田 伊丹に勝るも多く西部の縣ハ此酒の美味を知る者普 けれど東京人ハ灘と稱し攝州産のみ別品とおぼすに 依り這般京都の本家より當地の花と諸共に開く支店 の賣初かけ幾久しくも此酒を東京諸君の腹八盃上戸 の口に入船の積 荷ハ樽賣小賣を論せず精良の無二を 撰み廉價を以て差上せバ開業の當日より盡ぬ涌泉と 鴨川の流れ絶せず滔々と御購求の程 偏に願ひ奉つる と一盃機嫌に筆を採るハ上戸と下戸の中すみを汲
直 段
一 銘酒橋立 〈壹樽ニ付金五圓五十錢|壹升ニ付金貳 拾錢〉
一 仝 朝日 〈壹樽ニ付金四圓五十錢|壹升ニ付金拾 六錢〉
一 最上美淋 壹升ニ付金貳拾五錢
一〈野田|銚子〉醤油 良品廉價ニ差上可申候
四月〈廿一日|廿二日〉開店ニ付麁景呈上
香爐峰の下に 居て草堂を立と 云へる樂天が風雅でも なく家屋ハ山間に在れ ども虎溪の三笑が洒落でも なく空氣の流通と高燥の良地を 見立吾嬬者耶の古趾に名高き 湯島の臺の麓を囘り老鶯の巣造る頃妻 戀谷の窪きを坦し五百余坪の 庭園中新規に設けし樓上樓下一百 餘疊の廣間より其他小室二三を 備へ廊下に通ふ浴室にハ身体に 適す泉を沸し古き玉浦の礒邉に續き 遠く房總の海を眺望て佳景東都に比類なく 松栢ハ凉風を送り香草地邉を週り運動自在の 廣場を占め避暑の貸席割烹按配 都て貴客の 仰せに委せ調進なし奉れバ開業の當日より御勉強の 御心慰め四季折節の御散歩に御來臨の程希奉る
【三三】菓子「舩橋屋藤原織江」 | 国会「広告研究資料」(寄別3-5-114)初編巻二 | 83上 |
【三四】あなご「小林」 | 国会「広告研究資料」(寄別3-5-114)三編 | 23左上 |
【三五】蕎麦「寝覺庵」 | 国会「広告研究資料」(寄別3-5-114)三編 | 25左 |
【三六】蕎麦「清風亭」 | 国会「広告研究資料」(寄別3-5-114)三編 | 26右 |
【三七】菓子「亀屋和泉」 | 国会「広告研究資料」(寄別3-5-114)三編 | 30左 |
【三八】書画展(昇月樓) | 国会「広告研究資料」(寄別3-5-114)三編 | 33右 |
【三九】書画会(万八樓) | 国会「広告研究資料」(寄別3-5-114)三編 | 34左上 |
【四〇】遊覧会(井生村樓) | 国会「広告研究資料」(寄別3-5-114)三編 | 34左下 |
【四一】菅野順講(竹屋) | 国会「広告研究資料」(寄別3-5-114)三編 | 35右 |
【四二】貸席「近源亭」 | 国会「広告研究資料」(寄別3-5-114)三編 | 39全 |
【四三】芝居茶屋「八重扇子屋」 | 国会「広告研究資料」(寄別3-5-114)三編 | 40左上 |
【四四】待合「成田屋」 | 国会「広告研究資料」(寄別3-5-114)三編 | 44左 |
【四五】待合「愛森亭」 | 国会「広告研究資料」(寄別3-5-114)三編 | 48左 |
【四六】薬品「黒牡丹」 | 国会「広告研究資料」(寄別3-5-114)三編 | 55左 |
【四七】名弘め「近松門左衛門」 | 国会「広告研究資料」(寄別3-5-114)三編 | 65右 |
【四八】写真「北庭筑波」 | 国会「広告研究資料」(寄別3-5-114)三編 | 65左 |
【四九】染物「京清」 | 国会「広告研究資料」(寄別3-5-114)三編 | 66右 |
【五〇】重宝男「佛骨庵」 | 国会「広告研究資料」(寄別3-5-114)三編 | 67右 |
【五一】すし「めかり鮓」 | 国会「明治時代広告研究資料」(寄別3-5-112) | 14右 |
【五二】割烹「魚十」 | 国会「明治時代広告研究資料」(寄別3-5-112) | 17左 |
【五三】酒店「橋本富之助」 | 国会「明治時代広告研究資料」(寄別3-5-112) | 21左 |
【五四】貸席「いそべ亭」 | 国会「明治時代広告研究資料」(寄別3-5-112) | 27右 |