仮名垣魯文が書き遺した雑多なテキストの一つとして報条の調査蒐集を始めたのであるが、その数は数千から一万余にのぼるといわれている。しかし、所詮宣伝用のチラシに過ぎないので、余程奇麗な絵でも入っていないと捨てられてしまうことが多かったはずである。取り敢えず管見に入ったものの紹介を続けてきたが、今となっては全体像を明らかにすることは至難の業である。ただし、今まで魯文の執筆したテキストとしての紹介は少なかったので、魯文の逸文としての報条の片鱗はうかがえるものと思う。
さて、2021年の年末、広島の「海の見える杜美術館」にて「引札 ―新年を寿ぐ吉祥のちらし―」展が開催された。残念ながら実見する機会には恵まれなかったが、館では明治大正期の引札2200点に及ぶをコレクションを所蔵しているそうで、企画展を機に資料集『資料集 引札』が出されている。巻頭に掲載されている岩切信一郎「引札私考 ―近代印刷の仲の引札」と、青木隆幸「引札と美術 明治時代年末年始に配布された引札を中心に」という論考とが、引札研究の現在を知るに便宜である。つまり、木版・活版・石版等と変遷してきたメディア史研究と、引札に描かれた絵に関する美術史研究とに重きが措かれているのである。巻末に附された「主要参考文献」も有用で、これに一瞥を加えると、社会経済学からの広告史研究も付け加える必要があると気付かされる。ただし、この資料集には、明治中期以降の色摺のカラフルな引札が多数載せられているが、江戸期の文字だけのものや、口上の入った引札は一つも見られない。
従来から報条に記された戯文に関する研究は甚だ尠い。戯作者たちの書き遺した非文学的な戯文に対する関心が薄かったのであろう。本稿では魯文に特化した資料を紹介してきたが、等閑に付されたままである幕末から明治期に活躍した戯作者である山々亭有人や伊東橋塘、また筆耕をした永井素岳などの戯作者や彼等を取巻く環境に関する研究のためにも、僅かに遺されている報条なども見過ごせないと思われるのである。
ところで、嘗て出された古書肆の写真入りの目録などにも魯文の報条が散見され、大変に参考になる。例えば、2011年に出された名雲書店の「NEWSBOAD」85号の「236 東京横濱 明治初期料理店及商店引札コレクション」に、14点の写真が掲載されており、そのうち8点が魯文のものである。ただし、既に本稿で紹介したもので、26頁上は【一五】、27頁下は【一八】、28頁上は【二三】、同下は【二○】、29上は【二二】、32頁上は【二八】、33上は【二一】(=【六五】)、同下は【二七】と同じ資料である。残念ながら、この資料が何処へ収まったか不明であるが、写真の掲載されていない引札にも魯文のものが存した可能性もある。
さて、今回は前回に引き続き、一橋大学附属図書館蔵「奎星帖」第九冊に貼付されている資料を紹介し、次に、東京都立中央図書館特別文庫室蔵の貼込帳「鶏肋雑箋」に遺されている資料について紹介する。
この「鶏肋雑箋」(加賀文庫155)は加賀豊三郎氏が蒐集したもので、主として一枚摺の貼込帖(40×30cm程)}である。全30冊、別冊2冊からなり、各冊には錦絵、地誌、引札などと簡単に分類されてタグが貼られている。また、魯文の報条が見出せなかったので今回は取り上げないが「鶏肋雑箋」別集(加賀文庫156)全11冊も存し、私信を含めて封筒や便箋のコレクション、また台湾や北京を訪れた時の写真や印刷物など、幕末から昭和期までの多岐にわたる様々な資料が遺されており興味が尽きない。
【一〇五】(活版、字間二分アキ)
〈彌二郎兵衛|喜多八〉追善施餓鬼
我々供の先祖と致してお飯の種とも仰ぎ奉る神田八町堀の住人彌二良兵衛喜多八事膝栗毛ニ股がりて花のお江戸を旅立し明治の最初魁けして遠く滑藝を西洋に盡〔く〕せしより其後行衛の判からざるハ彼の畝傍かノーマントンに非ずとも出た日を命日(デハナイ)來ル廿九日蛸藥師の圖子西林寺にて施餓鬼の供養を致しますれバ兼て諸國の道中にて同人御馴染の諸君子午砲を相圖に御參詣被下度候
厚かましくも御參詣の方ハ香奠として金三拾錢宛紙に包でうや/\しく御備可被下候
發 〈橡面屋彌二郎兵衛の末孫|鉄面屋厚良兵衛事〉 栗亭東玉
起 〈北利喜多八の血筋|竒也面八事〉 桂 藤兵衛
人 〈東海道中の馴染十返舎一九の家筋|吐辧舎絶句事〉 山崎琴昇
百三十里の遠方なれども西洋にての知己かいに
此方共は何の事やらわからねども呑む事にハ跡引上戸遊ぶことなら後へハよらず委細承知と受込よく頭をならべぬ
芝の屋逸水
補 西 村 如 舟
可 猫 仙 史
助 草廼舎錦隣子
木 葉 和 尚
尚追悼狂詩狂歌及狂句之類も澤山に御出詠願候
【一○六】(製版、下部背景に梅花と松葉を色刷り)
椀焼御料理開業披露
食を前とし色を後とするハ。花より團子の下戸のみならず。上戸と雖も酒ありて。肴なけれバ何と歟いはむ。貧者は薄鹽のさんまを賞し。冨者ハ活鯛を奇なりとせず。口に癖あり舌に諸々の味を占るハ。凡て世界の通情ながら。美味ハ澤山ならぬを可とす。其盛方と煮方の塩梅。加減の程に心を用ひ。小坐敷ながら三席に。三色を分つ椀焼調理。諸事お手軽を旨として。お足も輕し折節に。御寄附をまつの月。庭の見込も有合の。鮮けき物數々の。仕入ハ間近き朝市夕河岸。黄金の鱗を魚板に。積で山なす御光来を。開業の當日より。幾久しく希ふ。主個に代りて記するものハ。上戸と下戸の間狂言。太老 冠者にてさふらうなり
改良御菓子御披露
甘泉滾々として靈亀その水の潔きに遊ぶといふ亀屋泉の菓子店ハ當所に久しき老舗なるも岩おこしの幾代變らず田舎おこしの僻製なるハ開化風味の當時に反けバ世の風潮に隨ひて万年製の古きを指き總て品物一切を改良なし下戸様方ハ勿論にて上戸のお口に適ふ様甘味に塩氣の混加減砂糖の雪舌に解け腹部に入て消化を導き留飲抔の妨害なく餅菓子干菓子の差別ハあれど清風一味に調製の法を曲ず營業上ハ折詰の折目正しく笹折のさゝやかなるも風味を變ず抹茶煎茶の點心にハ形象に風雅の型を盡し四季折節の新製にも高味に低き價を占め十露盤づくに關係なく數でこなすを緊要に精々盡力差上申せバ暖簾ハ古き万代の亀屋泉が流絶せず新製の改良品を御試味の上滔々と御購求奉願上候と句切ハ老實に
紅塵を市井に拂ひ憂苦を 方外 に放つこと時として名燕〔ママ〕を喫し間を得て棋局に對す樂みに如可きなし乍麼待合の名ハ茶の會に起り静閑を占る稱へなるを陸羽が下流に水鳥の跡を止め利休宗旦下戸ならぬ歟 茶ハ口切の端として先汲酒に風流の眼目ありと四時の眺望も此無くバ何の汝が櫻哉 と獻酬の禮親睦の基ひを開き當小亭に來客を待合茶屋と宴席とを繕ひ普請の間毎を分ち兩國川の流に沿ふ路の街の 柳橋 或ハ 葭町 のよき名ある藝妓ハ招かせ給ふ共風に憚る障り無けれバ三筋に繋ぐ時間を厭はず絃歌少しく席を隔ち彼石室山中二人對する棊局の供へ圍碁集會所の 名目 も常に兼業なし侍れバ開業の本日より黒白の晝夜をかけ先手後手と打て替一家盤面の寸地なく御詰合の程謹んで是祈と席主に代りて冀ふ者ハ近傍今日新聞の筆硯童叟
西洋御料理牛肉店開業
新年の門飾り松本と呼ぶ。家号に對す。町名の竹に隣りて煉瓦家屋の室の梅從來仕來たる割烹店ハ。新築の別家に移し茲歳あらたに開くといふ。商築賣の三ッ組さかづき。日本料理の開業ハ普請落成の後日に延ばし。東京一の地位を占め。西洋食と牛肉と。滋養の味に南北の兩手を廣げし一家の商法。廉價ハ勿論風味も特別。一品二品のお誂へも御意委せの自由自在。一呼咫尺の早手廻し。和酒も洋酒もなみ外れ。浪乗船に積貯へ。何より美味と仰せ合され事業はじめの初日より。七種薺うち囃し。御賛成なし下されなバ。新玉の砥に營業を。磨き立て大勉強精々渡世の膏油を増す御引立を願ふと牛巣
應需て同町の向ふ側
東京繪入新聞社の
〈嘉例永久萬歳樂|招慶甲寅千里春〉 景舛齋画[一景]
(大) 二こやかに四を\六ましく七にごとも\八わらぐひ十ハ十二かくによし
(小) 正直の三ハ五までも商ひの\閏ひ七が九十一やさかゑん
戀岱 鈍亭魯文戯賛◇[文]
【一一一】(製版、墨刷、一七・三×二三・五糎)
伏禀
家を造るは夏を旨にと。兼好法師が物好を。慕ふとにはあらざれと。春過山を卯の花の。開ける里に更衣。待ば甘露の日和を得て。古布子の綿を脱。洗躍旁轉宅の。空も晴着の御菓子所。挟い間口の口切や。汝を呼は菓子の事と。諸家に召れて御注文。受傳へたる極製数品。風味に骨を折詰や。御重詰の御用向。仰付られ老舗の株に。盛稲軒と御取立を。主人に代りて願ふ個は
發兌眞條
元日やうしろに近き大晦日。由断大敵我勝に。新奇を競ふ澆季斗のならはし。されハ世の人流行を。穿つがうへに上を行。日々あら□□初春から。暮行年のいち早く。仕込の工風に枕を□□小股潜りの人情世態。おそろ感心先陣争ひ。かゝる時節に案事を付ずバ。いつか誉を顕さんと。摺墨ならぬ意の駒に。無智をはやめて長谷川町。宇治のお茶菓子御口取甘味に渋味をとりまじへ。家名はかねて立花の。小島が崎より里人先に賣出す新製御干菓子。某佐々木になり代り。御披露まうす引札の。文字はひらがな製粹記價は低き淺瀬の水重。風味は至て高綱の。念入調進差上まうせバ賣出し當日より大綱小綱引もきらず。乱杙逆茂木透間もなく。永當/\御光來。おんもとめを願ふになん
座敷\開きの\御披露 [芳幾]
(定)
一 喧嘩口論之事
一 下におくへからす
一 おさへ申間敷事
但し相手によるへし
一 したむへからす
一 すけ申間敷事
但し女中ハくるし\からす
已上
月 日
(良雄)
赤穂吹田屋某所蔵
大石大夫自画盃径
四寸深一寸今小之
[印]
待宵の侍従が恋の歌を牛二頭の考へ物に題としくるまうし離れうしと牛車の迂遠き堕羅/\の時世に反し汽車と馬車との両道かけどちらも一里寸秒の便宜の場所ハ遣らず遁さず温泉料理と靴駒下駄二足を占し世渡りの競ひに敗ぬ勝公より高輪望海てふ貴毫の額を賜りしあつき恵みを水にせず家号に屓す高輪亭高きを仰ぐ一家の栄誉沸す温侑の泉岳寺ハ直真向ひの達増し普請来客方のおん穿物もいろは文字の四十七一時間ごと折かへし義士/\續いて門前のお召の車輻輳の時を得顔や冬の梅開く座敷の三階造り四時のうち入新陣交代旧に倍ます十八町 寒暑のゆきかひ御來車を主個に代りて希ふ
斯申すハ義士のいろは附に縁因ある
十二月 日 開亭
文久元辛酉年 光齋[印]
即席御料理
六月十六日みせ開[錦好製]
荒磯錦の妙なるにハ。琴嵩も仙金を投うち。應挙が画ける一軸にハ。床の間も龍門とうたがふべし。鱗のかずの歌人もこれを賞して。ふたつ文字牛の角文字と詠れたり。恋と鯉との假名ハ違へど。御客様の御来駕と。魚の出世のしたはしく。且お馴染を濃汁と。料理看板即席の。秀句もお口に合縁奇縁。これを礎の献立に数の珍味ハ調はねど。なるたけ魚ハあざらけく。煮方に念をいれ物のうつわを吟じ手奇麗に御酒ハ李白が一斗の瀧水。劉伯倫が徳利と量り。お手輕のみを専らとし。譬利益ハ低とも微塵つもれバ山の手に。老舗の株となりあがる。御引立の見世びらき。暦の日吉山王祭り。萬よつ谷の祇園會かけて。當日の未明より。よい/\わい/\永當と。御輿の渡らせ給ふに等しく御にぎ/\しく御貴臨の程。ひたすらに願ふとまうす
○ 鯉濃汁 麹町十三丁目 鯉屋猪三郎
當日麁景さし上申候
【一一五】(製版、背景下部水色ボカシ刷、一六×二三・五糎)
都々一辻占弁當\即席御料理御披露
八幡鐘のかねごとに。今宵くるりと疊算。松葉巴の一トふしに。思ひをこめし割籠の辻うら。戀の浮世と呼ぶ名さへ。猿江に残る碑の。かの新内の新見世ながら。御ひいきさまのえんの糸。つなく直〆の高きを厭ひて價ハ低き忍び駒。三筋活業も全盛の土地の余光を仮宅に。出前の他処行おはこびのゆふしごげんハ云も更なり。袖に露おく後朝の。御帰らせの折からにも。御立寄をひとへに/\ねかひまゐらせ候 かしこ
御 披 露
雷神門の大門から。續く中見世仲の町。五街にひとしき境内に。並ぶお食も大舗の。昼夜全盛の餘光をかりたく。坐敷も手挾の小鍋立。ちん/\あい鴨お客を引鍋。招く男花の穂に出る。けふ突出しの素人味。雜魚場料理の魚交り。大町並の數にも入やう。妙見様の鬮取弁當。よい辻占の裏家から。表間口を張程に御取立を願ふになん
風流辻占
御茶漬
清明が占の辻いつしか待合の辻占に移り。當卦本卦の賣卜家も。辻占煎餅の手輕きに変じ。子守綿衣の都々一を聞てハ。鼡啼して格子を敲き。丁子頭の吉瑞を見てハ。待人の來べきを思ふ。柳橋 花街の顰に做ひ。流行はやきを請賣に。三筋の巷ほどちかく。廓の花と諸共に。ひらく新製茶漬店。拙なる趣向の辻占も。老舗と成田の利益を頼み。肴も日々に有合の。不同名聞弘の景物。御鬮の箱の手振りをまねび。辻占箸の撰取に。千番までの品々を。當利の君へ差上まうせバ。勘定筋に拘る事なく。譬へ利分ハ低くとも。微塵つもりて山ほどの。御入を実入の一粒万倍。層で墾すを専一に。成丈精進仕れバ。こいつハ余程筋占茶漬と。御賞味ありて物の洒落。浮世の義理の折々に。御立寄を希ふと。髯の長文顧ず。海老隱居の需に應じ。腰を屈めて述るになん
千代田わんもり\有合会席御好み料理
三筋の大路を背後にして。前に三十間の深堀を構へ。汽車の機笛に時間を違へぬ便利の土地柄。自由の郷とも謂つ可き。府下一等の繁華の片側。向ひに遠き市中の閑と。大業にハ誇めかせど。實は手挾の小会席。今春中まで竹川の。節より細き流れに沿ひ。絶ず営業なし來たりし。餘波の味を當所に移し。鮮魚の煮焼汁加減ハ。御來客のお好次第。またおなじみの名ざしも近く。御通行のゆきかひには。正午のドンな喰味歟と。晩餐あしたの日を問はず。繁々の御來臨を。主估に
應需惺々曉斉
□ 鮮魚割烹 近源亭
開 業 報 知
東亰の巽に當り。目今一大昌地を開り。前にハ娼家軒を並べ。蜀山阿房の高樓を營み。花柳桃李の巷街なりしも。蜑が漁火の烟と亡せ。蜃氣吐出の泡と消えしが。一小地球の戯場界。復び茲に顕れて。新に富める町の名も。割符を合す鴫蛤蜊。此機を策る割煮調理ハ。卓朴臺の支那比擬さず。食料卓机の西洋傳染ず。豊芦原の中津國。片陂よらぬ献立の。柱太しき會席の。間毎を區別つ花鳥の彩色。庭に香を布く四季の園。樓上遥かに眺望せバ。冨士と筑波を左右に仰ぎ。南面の山海に煙々たる蒸氣を發し。彼鐡道の出車あれバ。貨盛ッて入舩の。目的を覘ふ鐡炮洲。幾代つきぢの客設け。御濱の真砂数繁き。内外 舟車の御來臨を。開業の當日より。萬國世界の端々まで。一圓に希冀ふ
新製初音鮓\賣發告條
人力車の花街通ひハ。白馬に乗れる究屈ならず。貸編笠の忍び出立は。蝙蝠傘の翅をひろげて。世に諱忌ぬ開化の流行。日毎の賣出し披露の報條。栄枯場地を換ざる中に。年來老舗し御菓子司。往來も繁き船橋屋。出入の港絶間なき。母屋の裏に放れ住。彼孤家の一夜鮓。石のまくらの押つよき。隱居仕事の片手業。風味は念備観音力。普門盆後のうり出しに。大悲詣のお戻りがけ。一寸一ぱい於茶湯日。ケンに添たる熊笹の。合手に酒も下戸上戸。菓子屋の出店に鮓見世の。蓼喰ふ蟲も好々様方人力車の[車回]りよく。蝙蝠傘の福衆開店。當日早天淺草の。未明より御來駕を女亭主に代りて冀望。
成田屋十八番
外郎賣 気の薬の御遊興場ゆゑ万事お手輕を専一に致候
矢根五郎 磨き立し器物其外とも清潔を旨と致候
関 羽 桃園に義を結ぶ御集会書画會等ハ殊更廉價ニ致候
解 脱 御酒ハ和洋とも上等品を備へお飲心よき様致候
勸進帳 假令一紙半錢たりともお茶代の少きを厭申さず候
七ツ面 藝妓衆ハお好み次第彼是と面を代て御覧に入候
暫 御酒のお肴ハ御散財を厭ひ多くお誂へあれバ成丈お止め申候
不 破 外々にて不破のお客様も當家にてハ名古屋に致工夫も御座候
嫐 御妻君方の嫉妬の發らぬ様に旦那様方をお遊ばせ申候
景 清 格子を破る腕力沙汰野暮筋の儀ハ平に御免を蒙り候
鎌 髭} 剃とハ禁句當る心ゆゑ如何なるお遊びも〓○ぬ所に味ひ御坐候
象 引 御帰宅のをりの人力車夫ハ力強く慥なる者を撰びお供致させ候
鑷弾正 磁石の銕を吸がごとく遠方の藝妓衆にても早速呼に遣し候
不 動 主婦ハ帳場に扣へ居て何事にも心を用ゐ叮嚀に致候
押 戻 下婢への御祝義などハ一切おん断り申上候
鳴 神 家名の轟くを好めバ諸藝人衆のお交際ハ何事にても致候
蛇 柳 水と木のつぼ合持料理屋さんや同業方のお妨げになることハ一切不致候
助 六 斯様に勉強致し候ハどうでんすな/\
目玉の大きな興言 作者 伊東橋塘代述(善|惡)
浪花町かごや新道
御待合 成田屋
【一二二】(製版、色刷、一八・五×二六・七糎)
小間物類\髢諸品賣出し
婦人の髪の毛もて縷れる綱にハ。よく大象も絆ぐの縁あり。されバ其髪のめでたからむを。好むが常と。思ひ設けし小間物店。見て美しき飾り附古きを温て新しき。年の中橋下槙町を。北より移す南傳馬。かみ風誘ふ伊勢屋が蹟式。老舗の家屋を譲り受。若水櫛のさら/\しきより。青柳の三日月形。梅が香の匂ひ高く。桃さくらの花かんざし。紅粉白粉の色を分ち。根がけ元結の締括りも。十露盤の玉かんざし。桁を外して原價限り。精々廉價に差上まをせバ。年の内より春待あへず。短日を長夜に継て。蓬莱山など御用向。多少に限らず希ひたてまつる
來ル八月十九日薬研堀蕎麦切樓上ニおいて會莚
〈御|伽〉座興 〈京之助|改 名〉安保九太夫
〈連番帳の合名記ハ|金札配分の假名附〉
満幇間太夫藏入 〈番数|千万續〉
〈欲面の二番目鏡ハ|椽の下卆の九變藝〉 安保珎術竒所場 〈御座敷五番新工夫|妙藝奉入御覧に候〉
一 ぜんせい揃 花街御連中 一 越後の角兵へ 政の屋小あぼ
一 みやこの 辰巳御連中 一 ころハやよひ 政の屋小あぼ
一 東京しん 嶋原御連中 一 すてゝこぢん九 政の屋小あぼ
一 諸流太細 音曲糸御連中 一 つるの餌ひろひ 安保九太夫
一 浮世通名 滑稽家御連中 一 よい/\の厄はらひ 安保九太夫
一 二ばの松 端唄御連中 一 初がつほ 安保九太夫
一 三ッのちまた 猿若御連中 一 かつぱの目玉 安保九太夫
一 かはりめ 見物御連中 一 内げいしや 安保九太夫
一 酌 人 衆 諸藝御連中 一 うなぎや開店 安保九太夫
一 あつた土佐 むかし御連中 一 せつぶん万才 安保九太夫
一 御贔屓御馴染 十八番御連通 一 まつら佐用姫 安保九太夫
一 椽の下のひきかへる 安保九太夫
祇園町の蛸肴に。二人前の箸を採り。加茂川の水[米参]に。二日醉の腹を愈して。西京旅行の昔を思へバ。岡田の野狐と呼ばれし暗呆。師直ならぬ高貴の君より。九太夫となん通称べしと。厚き命を蝙蝠羽織。此名弘めを引當に。柳湯ちかき齋宮屋を。假得て企つ欲面ハ。お約速の名詮自性。さハあれ彼ハ元来善人。他の心を祝ばさんとて。後から兀る正月詞。さしをれ呑むハ社お合ハ致せど胡麻犬となり反間を。巡らす程の敵役ハ勤えず。をり/\花主をまつら佐用姫。石にひとしく荷にハなるとも一度が他性の椽の下。蜘の巣がらみ這まつはりて。御光駕を冀条を。安保に代りて述るになん
【一〇五】追善施餓鬼「彌二郎兵衛喜多八」 「奎星帖」第9冊
【一〇六】椀焼料理「巴家とく」 「奎星帖」第9冊
【一〇七】菓子「亀屋和泉」 「奎星帖」第9冊
【一〇八】待合「高木さわ」 「奎星帖」第9冊
【一〇九】西洋料理「松本樓」 「奎星帖」第9冊
【一一〇】〔大小暦(嘉永七年=安政元年)〕 「鶏肋雑箋」16冊
【一一一】菓子「伊藤万作」 「鶏肋雑箋」29冊
【一一二】菓子「佐々木茂□」 「鶏肋雑箋」29冊
【一一三】温泉料理「高輪亭」 「鶏肋雑箋」29冊
【一一四】即席料理「鯉屋猪三郎」 「鶏肋雑箋」29冊
【一一五】料理「浮世」 「鶏肋雑箋」29冊
【一一六】料理「男花屋喜太郎」 「鶏肋雑箋」29冊
【一一七】辻占茶漬「海老甚」 「鶏肋雑箋」29冊
【一一八】料理「千代田」 「鶏肋雑箋」29冊
【一一九】割烹「近源亭」 「鶏肋雑箋」29冊
【一二○】鮓「甲子家」 「鶏肋雑箋」29冊
【一二一】待合「成田屋」 「鶏肋雑箋」29冊
【一二二】小間物「川北屋芳三郎」 「鶏肋雑箋」30冊
【一二三】座興「安保九太夫」 「鶏肋雑箋」30冊
【付記】翻刻を許可頂いた一橋大学附属図書館、及び都立中央図書館に感謝申し上げます。また、本研究はJSPS科研費JP21K00287及び大妻女子大学戦略的個人研究費S2113の助成を受けたものです。なお、一橋大学機関リポジトリ HERMES-IR で「奎星帖」の全冊が公開されています。
#「魯文の報条(六)」
#「大妻国文」第53号 (2022年3月31日)所収
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