魯文の報条(六)
高 木   元 

仮名垣魯文が書き遺した雑多なテキストの一つとして報条ひきふだの調査蒐集を始めたのであるが、その数は数千から一万余にのぼるといわれている。しかし、所詮宣伝用のチラシに過ぎないので、余程奇麗な絵でも入っていないと捨てられてしまうことが多かったはずである。取り敢えず管見に入ったものの紹介を続けてきたが、今となっては全体像を明らかにすることは至難の業である。ただし、今まで魯文の執筆したテキストとしての紹介は少なかったので、魯文の逸文としての報条の片鱗はうかがえるものと思う。

さて、2021年の年末、広島の「海の見える杜美術館」にて「引札 ―新年を寿ぐ吉祥のちらし―」展が開催された。残念ながら実見する機会には恵まれなかったが、館では明治大正期の引札2200点に及ぶをコレクションを所蔵しているそうで、企画展を機に資料集『資料集 引札』が出されている。巻頭に掲載されている岩切信一郎「引札私考 ―近代印刷の仲の引札」と、青木隆幸「引札と美術 明治時代年末年始に配布された引札を中心に」という論考とが、引札研究の現在を知るに便宜である。つまり、木版・活版・石版等と変遷してきたメディア史研究と、引札に描かれた絵に関する美術史研究とに重きが措かれているのである。巻末に附された「主要参考文献」も有用で、これに一瞥を加えると、社会経済学からの広告史研究も付け加える必要があると気付かされる。ただし、この資料集には、明治中期以降の色摺のカラフルな引札が多数載せられているが、江戸期の文字だけのものや、口上の入った引札は一つも見られない。

従来から報条に記された戯文テキストに関する研究は甚だ尠い。戯作者たちの書き遺した非文学的な戯文に対する関心が薄かったのであろう。本稿では魯文に特化した資料を紹介してきたが、等閑に付されたままである幕末から明治期に活躍した戯作者である山々亭有人や伊東橋塘、また筆耕をした永井素岳などの戯作者や彼等を取巻く環境に関する研究のためにも、僅かに遺されている報条ひきふだなども見過ごせないと思われるのである。

ところで、嘗て出された古書肆の写真入りの目録などにも魯文の報条が散見され、大変に参考になる。例えば、2011年に出された名雲書店の「NEWSBOAD」85号の「236 東京横濱 明治初期料理店及商店引札コレクション」に、14点の写真が掲載されており、そのうち8点が魯文のものである。ただし、既に本稿で紹介したもので、26頁上は【一五】、27頁下は【一八】、28頁上は【二三】、同下は【二○】、29上は【二二】、32頁上は【二八】、33上は【二一】(=【六五】)、同下は【二七】と同じ資料である。残念ながら、この資料が何処へ収まったか不明であるが、写真の掲載されていない引札にも魯文のものが存した可能性もある。

さて、今回は前回に引き続き、一橋大学附属図書館蔵「奎星帖」第九冊に貼付されている資料を紹介し、次に、東京都立中央図書館特別文庫室蔵の貼込帳「鶏肋雑箋」に遺されている資料について紹介する。

この「鶏肋雑箋」(加賀文庫155)は加賀豊三郎氏が蒐集したもので、主として一枚摺の貼込帖(40×30cm程)}である。全30冊、別冊2冊からなり、各冊には錦絵、地誌、引札などと簡単に分類されてタグが貼られている。また、魯文の報条が見出せなかったので今回は取り上げないが「鶏肋雑箋」別集(加賀文庫156)全11冊も存し、私信を含めて封筒や便箋のコレクション、また台湾や北京を訪れた時の写真や印刷物など、幕末から昭和期までの多岐にわたる様々な資料が遺されており興味が尽きない。

【一〇五】(活版、字間二分アキ)

  〈彌二郎兵衛|喜多八〉追善施餓鬼

我々われ/\ともせんいたしておめしたねともあふぎ奉る神田八町ほり住人ぢうにん彌二良兵衛喜多八事膝栗毛ひざくりけまたがりてはなのお江戸ゑど旅立たびだちし明治の最初はじめさきがけしてとほ滑藝おどけを西洋につく〔く〕せしよりそののち行衛ゆくゑからざる畝傍うねびノーマントンあらずとも命日めいにち(デハナイ)○○廿九日蛸藥師の圖子西林寺○○○○○○○○○○○○○にて施餓鬼せがき供養くやうを致しますれかね諸國しよこくどうちうにて同人やじきた馴染なじみ諸君子かた%\午砲ドン相圖あいづに御參詣まいり被下度候  

あつかましくも御參詣の方香奠たむけとして金三拾錢宛○○○○○かみつゝんでうや/\しく御そなへ可被下候

   〈橡面屋彌二郎兵衛の末孫|鉄面屋てつめんやあつ良兵衛ろべい事〉      栗亭東玉

   〈北利喜多八の血筋|竒也面八きなりつらはち事〉            桂 藤兵衛

   〈東海道中の馴染十返舎一九の家筋|吐辧舎絶句とつべんしやせつく事〉    山崎琴昇

百三十里の遠方ゑんほうなれども西洋にての知己なじみかいに

賛成者     東京   假名垣魯文 

このほうともは何の事やらわからねどもむ事に跡引あとびきじやうごあそぶことならあとよらず委細いさい承知しやうちうけこみよくかしらをならべぬ

芝の屋逸水 

   西 村 如 舟 

可 猫 仙 史 

 草廼舎錦隣子 

木 葉 和 尚 

尚追悼狂詩狂歌及狂句之類も澤山に御出詠願候

【一○六】(製版、下部背景に梅花と松葉を色刷り)

     椀焼御料理開業披露

しよくさきとしいろのちとするはなより團子だんご下戸げこのみならず。上戸じやうごいへどさけありて。さかななけれなにいはむ。貧者ひんじや薄鹽あましほのさんまをしやうし。冨者ふしや活鯛いけだいなりとせず。くちくせありした諸々もろ/\あぢしむすべ世界せかい通情つうじやうながら。美味びみ澤山たくさんならぬをよしとす。その盛方もりかたかた塩梅あんばいかげんほどこゝろもちひ。坐敷ざしきながら三席さんせきに。いろわかわんやき調理てうり諸事しよじ手軽てがるむねとして。おあしかる折節おりふしに。寄附よりつけをまつのつきにわ見込みこみ有合ありあひの。あざらけきもの數々かず/\の。仕入しいれ間近まちか朝市あさいちゆふ河岸がし黄金こがねこけ魚板まないたに。つみやまなす御光来ごくわうらいを。開業かいげふ當日たうじつより。幾久いくひさしくこひねがふ。主個あるじかはりてするもの上戸じやうご下戸げこあひ狂言きやうげん太老たらう 冠者くわじやにてさふらうなり

需應 金花猫翁 假名垣述 ◇[文] 
日本橋通四丁目東中横町  
箔屋町壱番地      
 来   十一月十八日
巴 家 と く


【一○七】(活版、字間ベタ、草色刷飾枠)

 改良御菓子御披露

甘泉かんせん滾々こん/\として靈亀れいきそのみづいさぎよきにあそぶといふ亀屋泉かめやいづみ菓子くわしみせ當所とうしよひさしき老舗しにせなるもいわおこしの幾代いくよかはらず田舎いなかおこしの僻製へきせいなる開化かいくわ風味ふうみ當時たうじそむ風潮ふうてうしたがひて万年まんねんせいふるきをさしおすべ品物しなものさい改良かいりやうなし下戸げこさまがた勿論もちろんにて上戸じやうごのおくちかなやう甘味あまみ塩氣しほけませ加減かげん砂糖さとう雪舌ゆきした腹部ふくぶいり消化しやうくわみちび留飲りういんなど妨害さまたげなくもち菓子ぐわし菓子ぐわし差別わかちあれど清風せいふう一味いちみ調製ちやうせいはうまげ營業上ゑいぎやうじやう折詰をりづめ折目をりめたゞしくさゝをりのさゝやかなるも風味ふうみかへ抹茶まつちや煎茶せんちや點心てんしん形象かたち風雅ふうがかたつくし四折節をりふし新製しんせいにも高味かうみひくあたひ十露盤そろばんづくに關係くわんけいなくかずでこなすを緊要きんやう精々せい%\盡力はたらきさしまを暖簾のれんふる万代ばんだい亀屋泉かめやいづみながれたえせず新製しんせい改良品かいりやうひん試味こゝろみうへ滔々とう/\おん購求もとめ奉願上候と句切くぎり老實まじめ

魯文叟述[呂文]  
日本橋通旅籠町九番地     
大 丸 向          
龜屋和泉拜
(京橋區木挽町九丁目青山活版所印刷)


【一○八】(活版、字間二分アキ、四周飾枠)

紅塵こうぢん市井しせいはらいう方外はうぐわいはなつことときとして名燕よきちや〔ママ〕きつかん棋局ききよくたいたの〔し〕みにしくきなし乍麼そも待合まちあひちやおこ静閑しづかしむとなへなるを陸羽りくう下流かりう水鳥みづとりあととゞ利休りきう宗旦さうたん下戸げこならぬ ちや口切くちきりはしとしてまづくむさけ風流ふうりう眼目まなこありと四眺望ながめこれなんおのれさくらかな獻酬けんしうれい親睦しんぼくもとひをひらこの小亭せうてい來客らいかく待合まちあひちや宴席えんせきとをつくろしんごとわか兩國川りやうごくがはながれ沿みちちまた柳橋やなぎばし ある 葭町よしちやう のよきある藝妓けいしやまねかせたまともかぜはゞかさわけれ三筋みすぢつな時間じかんいとはず絃歌げんかすこしくせきへだかの石室せきしつ山中さんちうにんたいする棊局ききよくそな圍碁ゐご集會所しうくわいじよ名目みやうもくつねけんげふなしはべ開業かいげふ本日ほんじつより黒白こくびやく晝夜ちゆうやをかけ先手せんて後手ごてうつかへいつ盤面ばんめん寸地すきまなくおん詰合つめあひほどつゝしんでこのいのるせきしゆかはりてねがもの近傍きんばうこんにち新聞しんぶん筆硯ひつけんどうさう

假名垣魯[呂文] 
日本橋區濱町壹丁目三番地   
  二月七日開業

高 木 さ わ 


【一○九】(活版、字間四分アキ、四周飾枠)

    西洋御料理牛肉店開業

新年しんねん門飾かどかざもとぶ。いへつゐす。町名ちやうめいとなりて煉瓦れんぐわ家屋づくりむろ從來これより仕來しきたる割烹れうりてん新築しんちく別家べつけうつとしあらたにひらくといふ。しやう築賣ちくばいの三ッぐみさかづき。日本にほんれうかいげふしん落成らくせい後日ごにちばし。東京とうけい一の地位ちゐめ。西洋せいやうしよく牛肉ぎうにくと。やうあぢ南北なんぼく兩手りやうてひろげしいつ商法しやうはふれんもちろんふう特別とくべつ。一ひんひんのおあつらへもぎよまかせの自由じゆう自在じざい。一せきはやまはし。和酒わしゆ洋酒やうしゆもなみはづれ。なみのりふねつみたくはへ。なにより美味びみおほあはされげふはじめの初日しよにちより。七種なゝくさなづなうちはやし。賛成さんせいなしくだされな新玉あらたま營業なりはひを。みがおほ勉強べんきやうせい%\せい膏油あぶらおん引立ひきたてねがふとまを

      應需もとめにおうじ同町どうちやうむかがは

           東京とうけいいり新聞しんぶんしや

假名垣老牛述 [呂文] 
       牛   鍋      一人前      金 四 錢
       し ゝ 鍋      一人前      金 四 錢
       上   酒      一 合      金 三 錢
       御   飯      一人前      金 貳 錢
         西 洋 料 理
       並   等               金貳拾五錢
       中   等               金三拾五錢
       上   等               金五拾錢
                 御好み一品賣金七錢

京橋區尾張町二丁目  松本樓 
       開業 一月〈十五日|十六日|十七日〉 三日間麁景呈上

【一一○】(製版、下部に色刷で寅を描く、二三・五×一三・三糎。〔大小暦(嘉永七〈安政元〉年)〕)

  〈嘉例永久萬歳樂|招慶甲寅千里春〉         景舛齋画[一景]

(大) こやかにを\むつましくにごとも\わらぐひ十二とにかくによし

(小) せうじきいつまでもあきなひの\うるほ十一しもやさかゑん                          戀岱  鈍魯文戯賛◇[文]

【一一一】(製版、墨刷、一七・三×二三・五糎)

     ふしてまうす

いへつくるはなつむねにと。兼好けんかうはう物好ものずきを。したふとにはあらざれと。はるすぐやまはなの。ひらけるさとうつりがへまてかん日和ひよりて。ふる布子わんばう綿わたぬぎ洗躍せんたくかた%\轉宅てんたくの。そらはれおん菓子所くわしどころせまぐち口切くちきりや。なんぢよぶくわことと。諸家しよけに召れてちうもん受傳うけつたへたるごくせいひんふうほね折詰をりつめや。御重詰おんぢゆうつめ用向ようむき仰付おほせつけられ老舗しにせかぶに。盛稲軒せいとうけんおん取立とりたてを。主人あるじかはりてねがもの

流行りうかう受賣うけうり       
假名垣魯文謹誌 
[御目印]
  盛稲軒
 御菓子所
  伊藤[万作]
田所町      
伊藤万作製 


【一一二】(製版、墨刷、一五・三×二三・五糎)

       發兌眞條うりだしかうじやう

元日ぐわんじつやうしろにちか大晦日おほみそか由断ゆだんたいてき我勝われがちに。新奇しんききそ澆季ぎやうき斗のならはし。されひと流行りうかうを。穿うがつがうへにうへゆくひゞあらたま初春はつはるから。暮行くれゆくとしのいちはやく。仕込しこみ工風くふうまくらを□□小股こまたくゞりの人情にんじやう世態せいたい。おそろ感心かんしん先陣せんぢんあらそひ。かゝる時節じせつ案事あんじつけ。いつかほまれあらはさんと。するすみならぬこゝろこまに。無智むちをはやめて長谷川町はせがわちやう宇治うぢのおちや菓子くわしおん口取くちとり甘味あまみ渋味しぶみをとりまじへ。いへはかねて立花たちばなの。小島こじまさきより里ひとさき賣出うりた新製しんせいおん菓子ぐわしそれがしさゝきになりかはり。披露ひらうまうす引札ひきふだの。文字もじはひらがなせいすいあたひひく淺瀬あさせみづかさ風味ふうみいたつ高綱たかつなの。ねんいれ調進ちゆうしん差上さしあげまうせ賣出うりだ當日たうじつより大綱おほつなづなひきもきらず。乱杙らんぐひ逆茂木さかもき透間すきまもなく。永當えいたう/\光來くわうらい。おんもとめをねがふになん

ものほん作者さくしや  假名垣魯文伏禀[文] 
 □ 〈新|製〉御蒸菓子御干菓子類数品
 □ 〈新|製〉御ねり物類    数品
 □御むし物御引菓子類御好次第調進仕奉差上候

 二月明日より
  當日麁景奉差上候

人形町通長谷川町角     
佐々木茂□ 


【一一三】(製版、色刷、一八・五×二六糎)

  しきびらきの\ろう        [芳幾]
     (定)
   一 喧嘩口論之事
   一 下におくへからす
   一 おさへ申間敷
      但し相手によるへし
   一 したむへからす
   一 すけ申間敷事
       但し女中ハくるし\からす
     已上
     月 日
                     (良雄)
                     赤穂吹田屋某所蔵
                     大石大夫自画盃径
                     四寸深一寸今小之
                       [印]

まつよひ侍従じゝゆうこひうたうしひきかんがものだいとしくるまうし○○○○○はなうし○○牛車うしぐるま迂遠まはりどほ堕羅だら/\のじせいはん汽車きしやしやとの両道ふたみちかけどちらも一すんべう便びん場所ばしよらずのがさず温泉をんせん料理れうりくつこま下駄げたそくしめよわたりのきそひにまけ勝公かつこうよりかうりん望海ばうかいてふがうがくたまはりしあつきめぐみをみづにせずいへおは高輪亭たかなはていたかきをあふぐ一栄誉ほまれわか温侑いでゆ泉岳せんがくすぐ真向まむかひのたて普請ぶしん来客らいかくがたのおん穿物はきものもいろは文字もじの四十七一時間じかんごとをりかへし義士ぎし/\つゞいて門前もんぜんのおめしくるま輻輳ふくさうときがほふゆうめひらしきの三がいづくり四のうちいりしんぢん交代かうたいきうばいます十八ちやう 寒暑かんしよのゆきかひ來車らいしや主個あるじかはりてこひねが
  かく申す義士ぎしのいろはづけ縁因ちなみある

假名垣老丈魯文[文]

    十二月  日 開亭

芝車町泉岳寺向ふ   
温泉料理    高 輪 亭


【一一四】(製版、色刷、一六・六×二三・四糎)

    文久元辛酉年            光齋[印]
  即席御料理
     六月十六日みせ開[錦好製]

ろうあるじにかはりて  假名垣魯文述 ◇[文] 

荒磯あらいそぎれたえなるに琴嵩きんかう仙金せんきんなげうち。應挙おうきよゑがける一軸いちゞくとこ龍門りうもんとうたがふべし。うろこのかずの歌人うたびともこれをしようして。ふたつ文字もじうしつの文字もじよまれたり。こひこいとのかんたがへど。御客様おんきやくさま来駕はこびと。うを出世しゆつせのしたはしく。かつ馴染なじみこくしやうと。れう看板かんばん即席そくせきの。しうもおくちあひえん奇縁きえん。これをこたび献立こんだてかずちん調とゝのはねど。なるたけうをあざらけく。かたねんをいれもののうつわをぎんれいしゆはくいつ瀧水たきすゐりうはくりんとくはかり。おがるのみをもつばらとし。たとへもうひくゝともぢんつもれやまに。老舗しにせかふとなりあがる。おん引立ひきたて世びらき。こよみひよし山王さんわうまつり。よろづよつおんかけて。當日たうじつめいより。よい/\わい/\永當ゑいたうと。輿こしわたらせ給ふにひとしく御にぎ/\しくりんほと。ひたすらにねがふとまうす

鯉濃汁 麹町十三丁目 鯉屋猪三郎

  當日麁景さし上申候

【一一五】(製版、背景下部水色ボカシ刷、一六×二三・五糎)

  どゞいつ辻占つじうら弁當べんたう即席そくせきおん料理れうりろう

八幡はちまんがねのかねごとに。よひくるりとたゝみさんまつともへふしに。おもひをこめしわりつじうら。こひ浮世うきよさへ。さるのこいしぶみの。かの新内しんないしん見世みせながら。御ひいきさまのえんのいと。つなくじめたかきをいとひてあたへひくしのごますじすぎ全盛ぜんせい土地とち余光よくわう仮宅かりたくに。出前でまへ他処たしよゆきおはこびのゆふしごげんいふさらなり。そでつゆおく後朝きぬ%\の。おんかへらせのをりからにも。おん立寄たちよりをひとへに/\ねかひまゐらせ候 かしこ

主人あるじかはり御ぞんじの    
假名垣の文◇[文] 
 來十一月
    〈見世びらき|麁景さし上被参候〉
御客様
     御元衛
深川仲町   
浮世より 


【一一六】(製版、下部に藍で草を色刷、一八・二×一七・二糎)

     ろう

雷神門かみなりもん大門おほもんから。つゞなか見世みせなかちやう五街ごちやうにひとしき境内けいだいに。ならぶおしよく大舗おほみせの。昼夜ちうや全盛さかん餘光よくわうをかりたく。坐敷ざしき手挾てぜま小鍋立こなべだて。ちん/\あいかもきやく引鍋ひきなべまね男花をばないづる。けふ突出つきだしの素人しろうとあぢ雜魚ざこ料理れうりとゝまじり。大町だいちやうなみかずにもいるやう。妙見様めうけんさま鬮取くじどり弁當べんたう。よい辻占つじうら裏家うらやから。表間口おもてまぐちはるほどおん取立とりたてねがふになん

主人に代りて      
  假名垣魯文戯述◇[文] 
 ○ あ い 鴨 御壹人前  三匁
   ○ おなじく引鍋   銀壱朱より
  九月今日見世びらき麁景奉差上候
浅草寐じやか堂境内   
男花屋喜太郎 


【一一七】(製版、色刷、一八×二六糎)

    風流辻占

      御茶漬

〈御一人前| 金壱朱〉    

清明せいめいうらつぢいつしか待合まちあひ辻占つぢうらうつり。當卦たうけ本卦ほんけ賣卜うらやさんも。辻占つぢうら煎餅せんべい手輕てがろきにへんじ。子守ねんねこ綿衣ばんてん都々一どゝいつきいねづみなきして格子かうしたゝき。丁子頭てうしかしら吉瑞きちずゐを見て待人まちびとべきをおもふ。柳橋 りうきやう花街くわがいひそみならひ。流行りうかうはやきを請賣うけうりに。三筋みすじちまたほどちかく。くるははな諸共もろともに。ひらく新製しんせい茶漬ちやづけみせせつなる趣向しゆかう辻占つぢうらも。老舗しにせ成田なりた利益りやくたのみ。さかなひゞ有合ありあひの。不同ふどう名聞みやうもんひろめ景物けいぶつ御鬮みくじはこ手振てぶりをまねび。辻占つぢうらばし撰取えりどりに。千番せんばんまでのしな%\を。當利あたりきみ差上さしあげまうせ勘定かんぢやうすぢかゝはる事なく。たと利分まうけひくくとも。微塵みぢんつもりてやまほどの。いり実入みいり一粒いちりう万倍まんばいかさこなすを専一せんいちに。成丈なるたけ精進せいしんつかまつれバ。こいつ余程よつぽどすぢうら茶漬ちやづけと。賞味しやうみありてもの洒落しやれ浮世うきよ義理ぎりの折に。おん立寄たちよりこひねがふと。ひげ長文ながふみかへりみず。海老かいらう隱居ゐんきよもとめおうじ。こしかゞめてのぶるになん

おなじみの 合巻かうくわん 作者          
假名垣魯文謹白◇[文] 

   辻占箸一番より千番まで御撰取相添候辻占の
   文句に寄て夫々の案景御壱人毎々奉差上候
 三月明日
  見世ひらき
下總成田出張     
横山同朋町
   
海 老 甚 


【一一八】(製版、周囲に緑色で稲穂を色刷、一八・六×一六・八糎)

    千代田わんもり\有合ありあひ会席くわいせきこの料理りやうり

三筋みすぢおほ背後うしろにして。まへに三十けん深堀ふかぼりかまへ。汽車きしや機笛きてき時間じかんたがへぬ便利べんり土地とちがら自由じいうさそともいひき。府下ふかとう繁華はんくわ片側かたかはむかひにとほ市中しちうかんと。大業おほげふほのめかせど。じつ手挾てせま小会席こぐわいせきこの春中はるぢうまで竹川たけかはの。ふしよりほそながれに沿ひ。たえ営業えいげふなしたりし。餘波なごりあぢ當所たうしようつし。鮮魚せんぎよやきつゆ加減かげん御來客ごらいきやくのおこのみ次第しだい。またおなじみのざしもちかく。通行つうかうのゆきかひには。正午しやうごドン喰味くひあぢと。晩餐ゆふげあしたのはず。しげ/\來臨らいりんを。主估あるじ

かはりて報條ひきふだ案文あんもんの一手捌てさばき       
假名かながき矇文もゝんぢんあひかはらずのぶる   
   〈十一月|廾五日|開店〉
三拾けん堀三町め河岸通角   
千 代 田


【一一九】(製版、色刷、二六×三七・二糎)

   應需惺々曉斉

        □ 鮮魚割烹  近源亭

    開 業 報 知みせびらきかうでう

應需 假名垣魯文演(善|惡) 

東亰とうけいたつみあたり。目今もくこん一大いちだい昌地しやうちひらけり。さき娼家しやうかのきならべ。蜀山しよくざん阿房あばう高樓かうろういとなみ。花柳くわりうとう巷街ちまたなりしも。あま漁火いざりびけむりせ。蜃氣しんきしゆつあはえしが。いつせうきうげじやうかいふたゝこゝあらはれて。あらためるまちも。割符わりふあはしぎ蛤蜊はまぐりこのはかくわつぱう調理ちやうり卓朴臺しつぽくだい支那しな比擬めかさず。ちや卓机ていぶる西洋せいよう傳染じみず。豊芦原とよあしはらなかくに片陂かた/\よらぬ献立こんだての。はしらふとしき會席くわいせきの。ごと花鳥くはちやう彩色いろどりには四季しきその樓上ろうじやうはるかに眺望みわた冨士ふじつくゆうあふぎ。南面なんめん山海さんかいゑん/\たるぢやうはつし。かのてつだうぐるまあれたからさかッていりふねの。あてうかゞ鐡炮てつぱういくつきぢのきやくまうけ。はま真砂まさごかずしげき。内外 ないぐわいしうしや御來臨おはこびを。開業かいぎやうとうじつより。萬國ばんこくかい端々はし%\まで。一圓いちゑん希冀こひねが

東亰新富町壹丁目北側   
近 源 亭 
   六月廿日開業

【一二○】(製版、色刷、二二×一七・一糎)

  新製しんせい初音はつねすし賣發うりだし告條こうでう

人力車じんりきぐるま花街さとがよはくれる究屈きうくつならず。かし編笠あみがさしのたちは。蝙蝠かうもりがさつばさをひろげて。諱忌はゞから開化かいくわ流行りうかうごとう〔り〕ろめ報條ひきふだえいところかへざるなかに。年來としごろ老舗しにせおん菓子司くわしづかさゆきゝしげ船橋屋ふなばしや。出入のみなとたえまなき。おもうらはなずみかの孤家ひとつやひとずしいしのまくらのおしつよき。隱居いんきよごとかたわざふうねん観音くわんおんりきもんぼんのうりしに。だいまうでのおもどりがけ。一寸ちよつといつぱいちやたう。ケンにそへたる熊笹くまさゝの。あひさゝ下戸みぎ上戸ひだり菓子くわしだなすし見世みせの。たでむしすき%\さまがた人力車の[車回]めぐりよく。蝙蝠傘の福衆ふくじゆ開店かいてん當日たうじつ早天さうてん淺草あさくさの。未明あさまだきよりらいをんなあるじかはりて冀望ねがふ

假名垣魯文伏禀(善|惡)
淺草雷門内\舩橋屋裏道    
甲 子 家 
  來七月明日賣出し\麁景奉差上候

【一二一】(製版、背景に二つの牡丹を色刷、17.5×25.1cm)

      なり十八ばん

外郎賣ういらううり  くすり遊興場ゆふきやうばゆゑ万事ばんじ手輕てがるせんいたし

矢根五郎やのねごらう  みがたて器物きぶつ其外そのほかとも清潔せいけつむねいたし

関 羽くわんう   桃園とうゑんむす御集会ごしふくわい書画會しよぐわくわいとう殊更ことさら廉價れんかいたし

解 脱げだつ   御酒ごしゆ和洋わやうとも上等品じやうとうひんそなへおのみごゝろよきやういたし

勸進帳くわんじんちやう  假令たとへ半錢はんせんたりともお茶代ちやだいすくなきをいとひ申さず候
なゝめん    藝妓衆げいしやしうこのしだい彼是あれこれおもてかへらんいれ

しばらく    御酒ごしゆのおさかな散財さんざいいとおほくおあつらへあれ成丈なりたけとゞめ申候

不 破ふは    ほか/\にて不破ふはのお客様きやくさま當家たうけにて名古屋なごやいたす工夫くふう御座ござ

うはなり    妻君さいくんがた嫉妬ちん/\おこらぬやう旦那だんなさまがたをおあそばせ申候

景 清かげきよ   格子かうしやぶ腕力わんりよく沙汰ざた野暮やぼすぢひら御免ごめんかふむ

鎌 髭かまひげ}   そる禁句きんくあたこゝろゆゑ如何いかなるおあそびも〓○ぬところあぢは御坐ござ

象 引さうひき   帰宅きたくのをりの人力じんりき車夫しやふ力強ちからつよたしかなるものえらびおともいたさせ候

鑷弾正けぬきだんじやう  磁石じしやくてつすふがごとく遠方ゑんはう藝妓げいしやしうにても早速さつそくよびつかはし候

不 動ふだう   主婦あるじ帳場ちやうばひか何事なにごとにもこゝろもち叮嚀ていねいいたし

押 戻おしもどし   ぢよへの祝義しふぎなどせつおんことはり申あげ

鳴 神なるかみ   めいとゞろくをこのしよ藝人げいにんしう交際つきあひ何事なにごとにてもいたし

蛇 柳じややなぎ   みづつぼ合持あひもち料理屋りよりやさんや同業どうげふがたさまたげになることハせつ不致いたさず

助 六すけろく   やう勉強べんきやういたどうでんすな/\

             目玉めだまおほきな興言 きやうげん作者さくしや   伊東橋塘代述(善|惡)
                         浪花町かごや新道
                             御待合   成田屋


【一二二】(製版、色刷、一八・五×二六・七糎)

月耕(泰)  

    小間物こまものるゐかもじ諸品しな%\賣出うりだ

婦人をんなかみもてれるつな。よく大象だいざうつなぐのえんあり。されそのかみのめでたからむを。このむがつねと。おもまうけしものみせうつくしきかざつけふるきをたづねあたらしき。とし中橋なかばし下槙町しもまきちやうを。きたよりうつ南傳馬みなみてんま。かみかぜさそ伊勢屋いせや蹟式あとしき老舗しにせおくゆづうけ若水わかみづぐしのさら/\しきより。青柳あほやぎ三日みかづきがたうめにほたかく。もゝさくらのはなかんざし。紅粉べに白粉おしろいいろわかち。がけ元結もとゆひ締括しめくゝりも。十露盤そろばんたまかんざし。けたはづして原價もとねかぎり。せい/\廉價れんか差上さしあげまをせとしうちよりはるまちあへず。短日たんじつ長夜ちやうやつぎて。蓬莱山はうらいさんなど用向ようむき多少たせうかぎらずこひねがひたてまつる

舗主あるじもとめに猫道人述◇[文] 
十二月二十七日より
   同三十一日まて
      麁景差上候

京橋区南傳馬町三丁め十四番地           
時計向横町右側
          
魁花堂  川北屋芳三郎 
素岳書[白蓮]    


【一二三】(製版、墨一色刷、24×34糎)

八月十九日薬研堀蕎麦切樓上おいて會莚

    〈御|伽〉座興 〈京之助|改 名〉安保九太夫
 連番帳れんばんちやうあひ名記じるしハ|金札きんさつ配分はいぶん假名附いろはわけ  満幇間太夫藏入みつどもへほしのくらいり 〈番数|千万續〉
よくづら二番にばん目鏡めがねハ|えん下卆した九變くへんげい安保珎術竒所場あぼちんじゆつふしぎのわざこと 〈御座敷五番新工夫|妙藝奉入御覧に候〉
一 ぜんせい揃  花街御連中   一 越後の角兵へ    政の屋小あぼ
一 みやこの   辰巳御連中   一 ころハやよひ    政の屋小あぼ
一 東京しん   嶋原御連中   一 すてゝこぢん九   政の屋小あぼ
一 諸流太細   音曲糸御連中  一 つるの餌ひろひ   安保九太夫
一 浮世通名   滑稽家御連中  一 よい/\の厄はらひ 安保九太夫
一 二ばの松   端唄御連中   一 初がつほ      安保九太夫
一 三ッのちまた 猿若御連中   一 かつぱの目玉    安保九太夫
一 かはりめ   見物御連中   一 内げいしや     安保九太夫
一 酌 人 衆    諸藝御連中   一 うなぎや開店    安保九太夫
一 あつた土佐  むかし御連中  一 せつぶん万才    安保九太夫
一 御贔屓御馴染 十八番御連通  一 まつら佐用姫    安保九太夫
                 一 椽の下のひきかへる 安保九太夫

祇園ぎをん町のたこざかなに。二人前のはしり。加茂川の水[米参]ざうすいに。二日よひはらなほして。西京かみがたあるの昔を思へ。岡田の野狐と呼ばれし暗呆あはう。師直ならぬ高貴の君より。九太夫となん通称なのるべしと。厚き命を蝙蝠かうもり羽織。此名弘めを引當に。柳ちかき齋宮屋いつきやを。かりくはだよくつら。お約速の名詮自性。さあれかれ元来善人。ひとの心をよろこばさんとて。あとからはげる正月ことば。さしをれ呑む社お合致せど胡麻ごまいぬとなり反間はんかんを。めぐらす程のかたきなしえず。をり/\花主きやくをまつら佐用さよひめ。石にひとしくなるとも一度が他性たしやうの椽の下。くもがらみはひまつはりて。光駕くわうがねがふよしを。安保にかはりてのぶるになん

かくいふ出雲いつもふでこ        假名垣ろ文しるす(善|惡)
交來書 


掲載資料一覧(凡例及び【一】〜【一○四】は前号までに掲載)

【一〇五】追善施餓鬼「彌二郎兵衛喜多八」   「奎星帖」第9冊

【一〇六】椀焼料理「巴家とく」        「奎星帖」第9冊

【一〇七】菓子「亀屋和泉」          「奎星帖」第9冊

【一〇八】待合「高木さわ」          「奎星帖」第9冊

【一〇九】西洋料理「松本樓」         「奎星帖」第9冊

【一一〇】〔大小暦(嘉永七年=安政元年〕     「鶏肋雑箋」16冊

【一一一】菓子「伊藤万作」          「鶏肋雑箋」29冊

【一一二】菓子「佐々木茂□」         「鶏肋雑箋」29冊

【一一三】温泉料理「高輪」         「鶏肋雑箋」29冊

【一一四】即席料理「鯉屋猪三郎」       「鶏肋雑箋」29冊

【一一五】料理「浮世」            「鶏肋雑箋」29冊

【一一六】料理「男花屋喜太郎」        「鶏肋雑箋」29冊

【一一七】辻占茶漬「海老甚」         「鶏肋雑箋」29冊

【一一八】料理「千代田」           「鶏肋雑箋」29冊

【一一九】割烹「近源亭」           「鶏肋雑箋」29冊

【一二○】鮓「甲子家」            「鶏肋雑箋」29冊

【一二一】待合「成田屋」           「鶏肋雑箋」29冊

【一二二】小間物「川北屋芳三郎」       「鶏肋雑箋」30冊

【一二三】座興「安保九太夫」         「鶏肋雑箋」30冊


【付記】翻刻を許可頂いた一橋大学附属図書館、及び都立中央図書館に感謝申し上げます。また、本研究はJSPS科研費JP21K00287及び大妻女子大学戦略的個人研究費S2113の助成を受けたものです。なお、一橋大学機関リポジトリ HERMES-IR で「奎星帖」の全冊が公開されています。

#「魯文の報条(六)
#「大妻国文」第53号 (2022年3月31日)所収
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